ところが、民進党内で頼清徳待望論は盛り上がらず、党内の公認候補争いで、蔡総統にあっさり敗れてしまう。その時、蔡総統が失意の頼氏を拾い上げ、副総統候補に就けた。そのことで、「何と度量の大きい総統か」と、蔡総統の党内での求心力が増したのだった。

頼清徳氏のスピーチ時だけ静まる聴衆

 私は2020年1月の総統選挙を、現地で取材したが、蔡総統は817万票という過去最多得票を得て再選を果たした。この時は民進党旋風が巻き起こり、民進党の政治家たちが壇上に上がると、拍手喝采となった。

 その中で、唯一の例外は、頼清徳副総統候補だった。頼候補がマイクを握った時だけ、会場がシーンとなる。すると頼候補は懸命に、中国語でなく、より庶民的なニュアンスが伝わる台湾語でスピーチする。だが反応はない。頼候補が照れたように下がり、次のスピーカーがマイクを握ると、再びやんやの喝采となる――。

 こうした現象が意外だった私は、隣席の民進党支持者の夫婦に尋ねた。そうしたら彼らは眉を曇らせ、「あの男だけは信用ならない」と吐き捨てた。