以前、住んでいた近所でちょっとした猫トラブルが起きた。「猫を探しています」という張り紙はよく見かけるが、その張り紙には「猫を返してください」と書かれていた。
その猫は地域猫だった。地域猫とは飼い主のいない猫だが、野良猫と違って、地域の人々が世話をしている猫である。その猫を世話していた一人が無断で連れ去り、他の人々が怒っていたのだ。
寒い時期だった。外で暮らす猫は冬を越しにくく、平均寿命も家猫と比べ、かなり短い。誰かが引き取ったのなら、猫にとって良かったのではないかとその時の私は思ったが、そんな単純な話ではないらしい。飼い猫に向かない猫もいる。猫の幸せってなんだろう。『猫たちのアパートメント』は猫たちの幸せのために奔走する人間たちの姿を追ったドキュメンタリーである。
取り壊される団地、そこに暮らす250匹の猫たちはどうなる
ソウル市の南東の端に位置し、アジア最大の複合住宅だった遁村(トゥンチョン)団地。1980年に竣工、およそ18万坪の敷地に143棟が建てられ、5930世帯が暮らしていた。
建築から20年ほど経った2000年代初めに再開発をめぐる議論が始まり、2017年に再開発が決まると、少しずつ人々が団地を後にし、取り壊し工事が始まった。
人々が憧れたこともあった団地は見る影もない。住む人がいなくなると、家は急速に老朽化が進む。ゴミを放置、廃棄する者も現れ、犯罪も増える。スラムと化していく広々とした土地に250匹もの猫が住み着いていた。