総合格闘技の中国選手を応援する街なかのプロモーション(筆者撮影)

(加藤勇樹:中国広東省在住コンサルタント)

 世界規模の総合格闘技団体「UFC」(Ultimate Fighting Championship)で、アジア人初のUFC世界王者になった選手をご存じでしょうか。

 中国の選手で、張偉麗(ちょういれい、ジャン・ウェイリー)といいます。彼女は2019年、女子ストロー級タイトルマッチで王座を獲得し、翌2020年には防衛に成功しました。2021年に敗退したものの、2022年には王座を再び奪還しています。

2022年に王座に返り咲いた張偉麗選手のポスター(筆者撮影)

 日本の場合、K-1やPRIDEなどの競技団体、魔裟斗選手などのプロ選手などは、格闘技の熱烈なファンでなくても聞いたことがある人は多いでしょう。しかし、中国選手と言われても知っている名前はないと思います。

 実は中国でも同様で、格闘技という競技自体があまり広く知られていません。そのような環境でも、優秀な選手を育てていこうという動きがあることをお伝えします。

「国内市場」一時は盛り上がったものの

 前述のUFCには、現在9人の中国選手が登録されています(https://jp.ufc.com/data/fighters)。これは、3人の日本選手よりも多い数です。ただし、日本選手は、待遇面で比較的有利な日本国内の団体と契約していることも多いので、一概には比較できませんが。

 このように世界に通用するプロの格闘技選手が現れてきてはいます。ただ、若手の育成や優秀な人材の発掘のためには、国内市場の拡大が不可欠です。ところが中国では格闘技の国内市場がなかなか広がっていません。

 中国で最初にファイトマネーが出る、いわゆる「興行」として開催された格闘技大会は2000年に始まった「散打王」といわれています。

 続いて2006年にART OF WAR FIGHTING CHAMPIONSHIP(英雄榜)、2014年にRanik Ultimate Fighting Federation(锐武终极格)といった大会が開催されるようになりました。2015年ごろには、毎月どこかでプロ格闘技の大会が開催されるほどの盛り上がりだったようです。

 ところがその後は開催数が徐々に減り、2022年現在、プロ格闘技の大会はほぼすべてが休眠状態となっています。開催団体の多くは国外在住の中国人や、中国在住の外国人企業家が資金提供していたのですが、資金面の問題で10年もたたないうちに次々と消滅しました。