11月26日の台湾統一地方選で台湾市長に当選した蒋万安氏(写真:ロイター/アフロ)

米国は元々、蔡英文を信用していなかった

 11月26日に実施された台湾統一地方選で、与党・民進党が大敗した。そして蔡英文氏(総統)は党首を辞任すると表明した。

 今回の選挙結果に親台湾路線を推し進めてきたジョー・バイデン政権はショックを受けている。

 ショックのあまり、コメントすら出せずにいる。そうした中で米国の台湾政策のエキスパートたちは、選挙結果をどう見ているのか。

 2つの見解が交錯している。

 選挙結果に驚くものと、「恐れていたことがいよいよ起こった」というものとに分かれている。

 共通しているのは、「すでに死んだと思っていた国民党の復活」だ。裏を返せば「日本の自民党のように未来永劫一党支配を続けるかに見えた民進党の破綻」である。

「2024年の総統選挙の行方すら不透明になってきた」といった見方も台頭してきた。

 それが米国にとって良いことなのか、悪いことなのか。今後の中台関係にどのような影響を及ぼすことになるのか。

 米国内の台中関係専門家たちの論議が始まっている。

 選挙結果を「大番狂わせ」(Big Surprise)と受け止めたデビッドソン大学のシェリー・リガー教授はこう分析する。

「民進党が2つや3つの市を落とすとは思っていたが、ここまで負けるとは、驚きだ」

「最大の敗因は、選挙は台北市長など主要都市22の市長を決める統一地方選挙だったにもかかわらず、蔡政権は2024年総統選の前哨戦ととらえ、争点を対中関係に置いたことだ」

「自らの対中強硬策を有権者が支持してくれると自負して『一つの中国・一つの台湾』を前面に押し出した」

「ところが、日常生活の改善を問う市長選で有権者が選んだ尺度は経済に向けられていた」

「海外メディアではあまり詳細に報じられていないことだが、民進党が推し進めていた定年退職者の年金制度改正、超時間労働改善、排気ガス規制強化といった日常生活に直結した事案にこそ有権者には重大だった」

「台湾は、『東洋の儒教国家』だ。とくに地方では人と人とのつながりが重要だ。利害関係が地域コミュニティや宗教団体とも微妙に絡んでいる」

「中台にまたがる闇の反社会的勢力も蠢いた。中には大陸中国と緊密な取引関係を持つ企業もある。しょせんは中国人同士だ」

「今回の選挙で、有権者にとって蔡政権の対中超強硬姿勢は好ましくないことが明らかになった」

「そのムードを中国は巧みに捉え、水面下で反体制派を支援していたことは間違いない。こうしたいくつかの要因が重なって、国民党の勝利に繋がった」

https://www.csis.org/podcasts/chinapower/results-and-ramifications-taiwans-elections-conversation-shelley-rigger