(柳原三佳・ノンフィクション作家)
「『池袋暴走事故の遺族を中傷、初公判で被告「侮辱の意図なかった」と無罪主張』(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221116-OYT1T50210/
11月16日に報道されたこのニュースを、我が事のように思いながら読みました。まさに、顔や名前を出して闘ったことのない、卑怯者の思考回路です。これがとおるなら、侮辱罪を重くした意味がなくなります」
そう語るのは、東京都在住の谷誠さん(46)です。
実は、谷さん自身も、匿名の人物によってネット上に根拠のない誹謗中傷を繰り返し書き込まれた当事者です。1年以上にわたって、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わい、経営する事業においても大きな実害を受けたといいます。
「私は一連の誹謗中傷により、10年間にわたって積み上げてきた信用を瞬く間に落とされました。妻子も精神的に追い詰められ、泣かされました。しかし、苦しんだ末、刑事告訴に踏み切り、警察の緻密な捜査によって相手が特定されたのです。加害者は海外でIPアドレスを攪乱しながら個人の特定を逃れているようでしたが、日本の警察の方が一枚上手でした。起訴はこれからですが、今後のネット上の誹謗中傷の抑止のためにも、この事実と経緯を社会に向けて公開できたらと考えております」
この1年、谷さんはどれほど過酷な体験をし、姿の見えない相手とどのように闘ってきたのか……。お話を伺いました。
受講契約が一気に激減
谷さんは1999年に航空大学校に入学し、その経験を生かして防衛省航空自衛隊に入隊。その後、防衛大学校総合安全保障科(大学院)を卒業し、2011年にパイロット予備校を設立しました。
「パイロットの予備校は10年間、順調に運営してきました。そしてこれまでに600名以上の生徒たちが、航空大学校や民間航空会社、航空自衛隊などに進み、パイロットの道を歩んでいます。
ところが昨年、私個人と会社に対するネガティブな記事が多数掲載されているブログがあることを発見したのです。書き込んでいる相手は誰なのか、理由は何なのか、全くわかりませんでしたが、このブログによる誹謗中傷の影響は大きく、受講契約を控える動きが出たため売り上げは激減。生活が一転しました」