中嶋 はい。しかし、ウェルビーイングを意識すると、途端に従来のビジネスフレームだと限界がくるんです。

 保険は補償以外の何を提供できるのか? お客さまのリスクの軽減だけでなく、社会課題の解決の一端を担うことはできないか? 試行錯誤の結果、保険の枠を超えたサービスの必要性に気づきました。そこで開発されたのが、長年わが社が収集してきたデータを使い、事故そのものを予防・軽減するシステム(一例が後述の「Driving!」)です。

 人は、万が一のことがあると動揺します。たとえば、火災で家が燃えてしまった場合、従来の保険機能だと建て直しの費用は補償されますが、心の安らぎや、いち早く平常の生活に戻れるという補償はありません。事故時の心の回復につながるようなサービスの提供ができて初めてウェルビーイングが実現できるはずだと。

 ウェルビーイングは、自身が健やかに過ごせることはもちろんですが、自分を取り巻く社会が安心できる場所であることも必要です。つまり、企業として社会課題への向き合い方も変えていかなければなりません。

中嶋 陽二氏
損害保険ジャパン株式会社取締役常務執行役員。横浜市立大学商学部を卒業後、1989年安田火災海上保険(現損害保険ジャパン)入社。 海外事業企画部特命部長、コマーシャルビジネス業務部長などを歴任し現職。
商品開発、法人営業、英国ロイズシンジケートへの出向など幅広く経験。スピーディーに新しいことにチャレンジする行動力を強みとし、現在は商品開発部門のみならず、マーケティングやDXの担当部署、社内システムの刷新部署など、損害保険ジャパンのミッションを具現化する重要部署の責任者を務める。

藤田 なるほど、よくわかります。単に健康であることは、ウェルビーイングのゴールではないんですよね。健康でも家族や友人との関係が良好でなければ、幸福ではないかもしれませんし、その逆も然り。補償があることによって、契約者の新たなチャレンジが促されるとか、自分らしさを実現できるといった、次の段階の可能性に目を移されていますね。

お客さまとは年1回の勝負!? 人との接点を見直す

藤田 “マイナスをゼロにする“から”マイナスからプラスに”への転換。ウェルビーイングを下地に、万が一のときに登場する保険をどう組み立て直していったのでしょうか?