(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)
先日、北朝鮮の金正恩総書記から北朝鮮・朝鮮中央テレビのベテラン女性アナウンサー、リ・チュニ氏に、豪華マンションが贈られたという話が話題になった。
このマンションが建つ「瓊楼洞(キョンルドン)」は、2022年4月、北朝鮮最高人民会議・常任委員会政令第690号によって平壌市中区域に新設された「洞」(行政区画名)である。瓊楼洞とは、「美しい玉のような樓閣」という意味の言葉だ。
もともとは1950年代から1970年代まで金日成(キム・イルソン)主席の邸宅「5号宅」の跡地だったが、金正日氏の指示の下、2022年4月13日、800世帯の超豪華テラス型複層住宅団地に生まれ変わった。金日成氏の邸宅を壊してまで瓊楼洞を整備したのだ。
5号宅は、旧ソ連の建築様式で作られた2階建ての本館と、4つの附属建物からなる延べ7000坪ほどの邸宅だった。
2階建ての本館には、金日成氏の寝室、執務室、面談室、小会議室、茶菓室、食堂、美容室、応急医療室などがあり、4つの附属建物には、車両保管車庫、行政管理棟、映画館、サウナ、運動室、空調室などがあった。そのほかに、野外菜園、小型噴水台、草花用温室、プロムナードなどで構成されていた。
この場所に、金日成氏の邸宅が建てられた理由は、古くから伝わる地理風水によってだ。
ここは平壌屈指の景勝地であり、高句麗の時代の6世紀、平壌城の中城の西門として「普通門」が建てられた場所だ。また朝鮮時代には、普通江の渡し場で客を見送る光景が「普通送客」として「平壌八景」の一つに数えられた、名所中の名所である。
1900年には、朝鮮に来た西洋宣教師と外国商人の子供が通った寄宿制の私立学校「平壌外国人学校」が建てられた。
もちろん、後継者の金正日(キム・ジョンイル)氏もここで幼年期と青年期を過ごした。だが、ここは金正日氏にとって決して愉快な思い出のある場所ではない。ここで、金日成氏が金聖愛(キム・ソンエ)を後妻にしたからだ。
反対に、金聖愛氏が産んだ金平日(キム・ピョンイル)、金英一(キム・ヨンイル)、金慶真(キム・キョンジン)にとっては、生母の思い出が込められた由緒ある場所である。
その後、1977年に大同江の川辺に主席宮(現・錦繍山太陽宮殿)が新しく建てられると、5号宅は歴史の中の遺物になった。見に行くことすら嫌った金正日氏によって、5号宅は長期間、主人のない家として放置されたのだ。