引退後の住まいに悩む高級幹部

 前述した通り、瓊楼洞こと5号宅地域は護衛司令部が管轄し、民間人接近禁止区域だった。

 周辺には、護衛司令部本部建物とともに、給油所、護衛司令部1号写真撮影部、金正恩家族のための戸建て住宅、護衛司令部の軍官官舎などがあり、ここに民間人のための超豪華住宅団地を建設するなど想像すらできないことだった。

 しかし、2009年に金正恩氏が北朝鮮の公式後継者に選ばれ、5号宅建物の解体指示を出して以降、この場所は北朝鮮権力機関の最大の関心事になった。

 最初に関心を示したのは、最高権力機関の中央党だった。

 中央党財政経理部は、中央党で定年まで勤めた副部長以上級の高位職官僚が引退後に移り住む家がないという報告書を金正恩氏に提出した。名前を聞けば誰もが知っているような中央党高位職の人物が引退後に住む家がないという事実に、金正恩氏は驚いたという。

 中央党課長以下の幹部は引退後、平壌市の一般アパートに入居できればそれだけで最高なのだが、副部長以上の上級幹部にとっては少し事情が違う。

 住宅を自由に売買できる資本主義社会とは違い、北朝鮮では国が割り当てる住宅に住まなければならない。だが、引退後に与えられるアパートの立地条件や住宅環境を考えると、引退した幹部のほとんどが自身の希望とは合わずに回避している。

 ある中央党副部長は引退後も家をもらわず、中央党合宿所に荷物を置いたまま、良い物件が出て来るのを待っているほどだという。