金正日氏の想像を超えた日本国内の怒り

 会談は、当初に予想した4時間より1時間30分も早く終わったが、この間の金正日氏の即興政治は凄かった。金正日氏は、北朝鮮の関係者との調整もなく、日本人拉致問題をクールに認めて謝り、さらに日本人拉致生存者の帰還の可能性まで示した。同時に、ミサイル発射実験も無期延期するという約束もした。

 代わりに、金正日氏は小泉元首相から日本の過去の歴史に対する謝罪とともに、対北朝鮮経済支援の約束を取り付けた。そして、このような土台に基づき、翌月から、日朝関係改善の交渉を再開することにした。

 日朝首脳会談で金正日氏が切実に望んでいたものは、日本の過去の歴史賠償に伴うお金である。一方、日本の小泉元首相の願いは、北朝鮮の日本人拉致問題解決による自国内の支持率反騰だった。この二つの核心的な要求が、ぴたりと一致して、日朝首脳会談は2時間もかからずに妥結したのだ。

 だが、ここで金正日氏の考えが及ばなかった問題が一つ生まれた。それはまさに、日本人拉致問題によって、この後に派生した日本の世論である。

 先の高官は、「自由民主主義国家では、国民的な世論によって国家政策が左右されるという事実を、当時の金正日氏は書物だけで知っていたようだ。そして、その後まもなく、金正日自身が直接知ることになった」と語る。

 お金に目がくらんだ金正日氏が即興的に認めた日本人拉致の事実は、日本国内世論はもちろん、全世界のメディアにも大きな衝撃を与え、114億ドルという約束だった北朝鮮に対する経済支援も失敗に終わりかねない危機を迎えた。

 同時に、北朝鮮への送金窓口としての役割を果たしていた朝鮮総連も、日本国民の荒々しい批判と圧力によって、総連の存在そのものが危ぶまれるような状況にまで陥った。