拉致問題で記者会見する横田滋氏(写真:AP/アフロ)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 日本は、自国民の拉致問題の解決に積極的な姿勢を見せている国の一つだ。韓国に比べれば、とりわけそうである。

 2019年5月、北朝鮮による韓国の拉致被害者家族団体「戦後北朝鮮拉致被害者被害家族連合会」が発表した資料によれば、朝鮮戦争以後、北朝鮮に拉致された韓国人拉致被害者数は500人を超える。だが、韓国政府はこの件に関して、北朝鮮政府に積極的に問題提起することはほとんどない。

 それ対して、日本政府が公式に発表した、北朝鮮に拉致された日本人被害者は17人だ。その中の5人は、既に日本に戻って来ている。

 そして、日本政府は北朝鮮政府に拉致問題を継続的に提起している。2002年と2004年に平壌で開かれた、2回の日朝首脳会談が、その代表的な事例だ。

 この時、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記は史上初めて、そして恐らく最後であろうが、日本人の拉致問題を小泉純一郎元首相の前で認め、謝罪した。なぜ金正日氏はそんなに簡単に、日本人の拉致問題を認めて謝罪したのだろうか。

 今から20年前の、金正日氏の日朝首脳会談の謝罪の場面に戻ろう。

 その当時、金正日氏は久しぶりに迎えた米朝関係、南北関係、および日朝関係の雪解けに完全に浮き足立っている状態だった。とりわけ、経済大国である隣国日本からの大々的な対北朝鮮経済支援に対する期待感は、北朝鮮経済の復興を願っていた金正日氏には、砂漠のオアシスのようなものだった。

 同時に、日本の小泉政権も北朝鮮による日本人拉致問題を通じて、自国内の支持率の上昇と、日本の国連常任理事国進出のための国際的な環境づくりを目的として、日朝首脳会談に積極的な姿勢を見せていた。

 ゆえに、北朝鮮外務省は、日本の外務省と首脳会談のための実務的な接触会談を何度も設け、北朝鮮の対南工作部署は、首脳会談で取り沙汰されるであろう日本人拉致問題の対応について、その後のことを憂慮する内容の提言書を、金正日氏に報告していた。