対象を落とし抜け出せないようにさせるマインドコントールのテクニック

 たとえば、大学に入学したばかりで新生活にも慣れていない時期であれば、あれこれ迷うことも少なくない。どの講義を選択したらいいのか、どこに行けばどんな施設があるのか、困っている時にアドバイスをくれる、相談にのってくれる相手が現れる。助かったと思ったり、嬉しかったりする。他人から良くされると人間は、こんどお礼やお返しをしたいと思うようになる。つまり「貸し」を返そうと考える。これを「返報性の原理」という。

 これを巧みに利用して、いわゆるカルトと呼ばれる団体は勧誘してくる。優しく話を聞いてくれるだけでも「貸し」ができる。この「貸し」をつくることで、要求を受け入れさせるようにもっていく。それも「ローボールテクニック」といって、まずは小さくて受け入れやすい要求を投げてくる。最初から、団体名を名のるのでもなく、いきなり入会を勧めるのでもなく、「ちょっと30分だけ話をしないか」とか「今夜、空いてないか」などと近寄って連絡先を聞く。これが入口になって関係を築く。

 次に「希少性の原理」を利用する。これは日常的に商売でも使われているもので、たとえば、スーパーマーケットでもタイムセールをやる。「いまだけ!」「限定○○個!」「残りわずか」と聞けば、つい手をだしたくなる。

 これがカルトであれば「あなただけに伝える」「せっかくいい先生が来ているから」「月にたった1回しか会えない人だ」などと希少性を強調して「1時間だけどう?」などと声をかける。そうすると「まあ、1時間くらいならいいか」と誘いに乗ってしまう。

 そこから団体名を言わないうちに、教義が教え込まれていく。統一教会や原理研究会であれば、友人として信頼を得た上で「聖書の勉強をしましょう」と持ちかけてくる。これがより組織的に行われていると指摘されてきたのが、やはり統一教会だった。

 それでも怪しいと感じて誘いを断る。そうするとこんどは「あの時、こう言ったよね」「約束したよね」と持ちかけて、話が違うことを責める。人間は自分の発言や行動には一貫性をもちたい、宣言したことはやり遂げるべきだと意識を持つ「一貫性の原理」を利用するのだ。