実は、オウム真理教などのいわゆる「カルト」に親がはまった子どもたちが直面するのは、親からの「虐待」である。本来あるべき家庭が「機能不全」に陥り、虐げられる子どもたちの存在。今回の蛮行は決して許されるものではないが、あえてその観点からこの事件を論考してみたい。言い換えれば、“カルト2世”の問題である。

幼少期からネグレクト状態に置かれていた山上容疑者

 日本の厚生労働省では児童虐待を、①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト、④心理的虐待の4つに分類している。心理的虐待には、子どもの自尊心を傷つける言動や、暴言、無視などが含まれる。

 山上容疑者の場合、幼少期に父親が自殺している。親の自殺が子どもに与える心理的影響は大きい。子どもの目には、自分は親から見棄てられた、と映るからだ。しかも、これをきっかけに母親は統一教会にのめり込んでいく。自分よりも教団を優先して依存していく母親の姿。山上容疑者の伯父がメディアに語った内容も報じられているが、母親が教団に傾注して家族が経済的に困窮していく様にしても、子どもを顧みない強烈な虐待の存在がうかがい知れる。

 また、山上容疑者の母親が統一教会に傾倒した事情には、山上容疑者の兄の存在があったようだ。兄は小児がんを患い、小学生の時に頭蓋骨を開く大手術を受け、抗がん剤治療も続けたが、そこで片目を失明している。その長男の救いも母親は教団に求めた。長男を連れて韓国に渡り、教団の聖地で教義や祈祷を受けさせる「四十日間修練」を受けさせたとも報じられている。そこでは弟の山上容疑者にネグレクトが生じたことになる。

 兄弟姉妹の間での差別的な扱いも心理的虐待にあたる。特異な事情があったとはいえ、統一教会を恨むという山上容疑者にはどう映ったのか。その兄ものちに自殺している。