二分するコノシロの食材評価
その昔、駿河湾の海岸に通っていた頃、たまに潮に乗って回遊してくるコノシロは、いつも並んで釣る顔なじみの釣り師の間では良いお土産であり、お酢で〆たコノシロの美味しさを知る機会でもありました。
近年、江戸前の釣りに興味をもち、東京湾の海釣り施設などを訪れることが多くなりましたが、よく竿を曲げてくれる本場のコノシロは、変わらず釣り味や食を楽しませてくれます。
一方、現地で周りを見ていると、渋い中でようやく釣り上げたコノシロを見て喜ぶ人と不要なゲストと嘆く人、それぞれ評価が二分することに気付きます。
いつも「美味しい魚」としてコノシロを見ている私には、これが不思議に思えておりました。
これに興味を持って、コノシロの食材としての価値や史的変遷を調べてみると、調理方法で食味評価が大きく変わってしまうことが主たる要因ではないかとの仮説に行き着きます。
今回は実釣の再現性もさることながら、これまでとは少し視点を変えて、釣果であるコノシロの「食材価値」ついて検証してみたいと思います。
特に古くから食されている先人の「評価」の変遷、そして現在の絶品の味を引き出す加工の原理や工夫については、調理科学の視点からも確認してみたいと思います。
コノシロ特有の調理法を知ることで、苦労して釣り上げた貴重な1匹が楽しみに変わる一助となればと思います。
コノシロの食材としての位置づけ
コノシロは特定地域を回遊する出世魚。
サイズで幼魚のシンコから始まり、コハダ、成魚はコノシロと呼びますが、知名度としては鮨ネタの「コハダ」が有名です。
関東では加工品として有名な「粟漬け」といえば、お正月によく見かける逸品です。
さらに1キロ10万円前後で仕入れられるといわれる「シンコ」は季節を味わう高級な鮨ネタであり、食通をうならせる食材であります。