独自の金融理論でインフレを招いているトルコのエルドアン大統領(写真:AP/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 トルコが、その地政学的な優位性を大いに活用している。北欧のフィンランドとスウェーデンは5月15日、長年の方針であった中立外交を見直し、北大西洋条約機構(NATO)へ加盟を申請した。NATOのストルテンベルグ事務総長は両国の加盟申請を歓迎したが、唯一反対しているのがエルドアン大統領率いるトルコである。

 フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対する理由として、両国が「テロ組織を支援している」ことをトルコは挙げている。両国にはクルド人の難民が多く、そうした人々の中にはトルコがテロリストに指定する組織に属する人もいる。テロリストを匿っている以上、トルコは両国のNATO加盟を支持できないと主張する。

 NATO加盟には、現加盟国の全会一致での同意が必要となる。そのため、トルコが立場を変えなければフィンランドとスウェーデンはNATOに加盟できない。とはいえ、トルコの真の要求は、欧米各国がトルコに科している制裁の緩和にあると考えられている。具体的には、欧米各国による武器の禁輸措置の撤回を導きたいようだ。

 欧米が一丸となってロシアに対応しているという姿勢を示すうえで、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は政治的に大きな意味を持つ。そうした欧米の考えを見透かすように、トルコは欧米に対してプレッシャーをかけている。この「条件闘争」はトルコに有利であり、欧米は強く出ることができない状況だ。