「私も植毛しているんですよ、フフフ」
院内に入ると個室に案内され、「薄毛を気にしたのはいつからか、どのあたりが気になるか、シャンプーは毎晩しているか」など、薄毛に関するヒアリングを女性スタッフから受けた後に、薄毛の最新治療の説明を長々と聞いた。
「女性が話す医学的な話は、私にとっては『とっくに知っている』という情報ばかりでした。でも、モニターの仕事に徹するために『そうなんですか、へー』と初めてのような顔をしていました」
女性スタッフは小型カメラを使ってIさんの頭皮を写し、「森」の中がいかに危機的状況に陥っているかを説明した。「50代になれば、どんな人でも多少は危機的状況になるだろう」とIさんが思って聞いていると、このクリニックの理事長という、石原軍団のような存在感のある紳士が登場した。
彼はダブルのスーツに白髪交じりのオールバックで、自分の髪を見せながら、「私も植毛しているんですよ、フフフ」と鷹揚な笑顔を浮かべ、植毛がいかに簡単で安全に行われるかを話し出したという。
「この御仁は、ちょっとカタギの感じがしませんでした。でも、こういうキャラクターの方にはお目にかかる機会がないので、私には新鮮でした」
Iさんは自宅に帰り、院内の様子やサービス内容について詳細なレポートにまとめて報告した。すると、「とても丁寧な報告で、細部まで伝えてもらえてよかった」とモニターを依頼した会社から言われ、その後も数回にわたって別の薄毛クリニックのモニターを頼まれた。
いずれも都内の自宅から電車で行ける距離で、カウンセリングだけでなく、ヘッドスパなどを体験することもあった。ほかにも、保険相談や脱毛など合計10カ所ほどの体験モニターの仕事をし、2~3カ月で合計2万円ほどの報酬を受け取ったそうだ。
「お小遣い程度の収入にしかなりませんが、いろんな人に会えて面白かったです。研究室の世界しか知らなかった自分には、いい気分転換になりました」
体験モニターの仕事の中には悪質なものもあるので、注意が必要だ。「覆面調査」というのは表向きで、実際は集客目的のモニターもあるようだ。幸い、Iさんはトラブルに巻き込まれるようなことはなかったようだが、報酬が支払われないというトラブルも起こっているので、副業する人は注意しなければいけない。