製薬会社の研究者だったIさんはなぜ副業を始めたのか(写真:アフロ)

「あれ、こんなところでおじさんが働いてる……」

 近年、非正規労働の現場で、しばしば「おじさん」を見かける。しかも、いわゆるホワイトカラーの会社員が、派遣やアルバイトをしているケースが目につくようになった。

 45歳定年制、ジョブ型雇用、そしてコロナ──。中高年男性を取り巻く雇用状況が厳しさを増す中、副業を始めるおじさんたちの、逞しくもどこか悲壮感の漂う姿をリポートする。

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(若月 澪子:フリーライター)

70歳まで今の会社にいたくない

 2021年4月、「高齢者雇用安定法」の改正で、70歳までの就業を確保する努力義務が企業に課されるようになった。「年金、すぐに払えそうにないから、とりあえず会社にいさせてあげて」と国が企業に頼んでいる。

 しかし、「今の会社に70歳までいられるなんてラッキー」と思う中高年ばかりではない。「え、そんな年まで同じ会社にいるなんてツラすぎる……」と考えるおじさんも多い。60歳を過ぎると給料が大幅に下がる、そもそもモチベーションがわかないなど理由はさまざまだが、そうなると中高年男性の次なる選択肢は「転職」になる。

 もちろん、45歳以上のおじさんの転職はハードルが高い。それは大企業に勤める、高度な専門知識を持つ人も同じだ。結果、転職活動がうまくいかず、「とりあえず副業でも探しとくか」となるおじさんも出る。

 大手製薬会社で研究員として30年以上働いてきたIさんも、転職活動に難航し、副業を模索する一人だ。

 長年、さまざまな新薬の研究に取り組んできたIさんは、自社の研究所だけでなく、医学部のドクターにも幅広い人脈を持つアカデミックな人生を歩んできた。ところが、3年ほど前に状況が変わる。Iさんが手がけていた、とある病気の新薬の研究が中断されることになったのだ。

「今、新薬の研究はFDA(米食品医薬品局)の基準に合わせなくてはいけません。国内だけで売るなら厚生労働省の基準を満たせばいいのですが、世界で売り出すには、世界基準に合わせる必要があります。私が関わっていた薬のFDA認可基準は非常に厳しく、治験(薬の臨床試験)にものすごくお金がかかるため、会社から開発中止を宣言されました」

 長年、ライフワークとしてこの新薬の開発に心血を注いできたIさんは絶望し、社内での研究に心が折れてしまった。