ウクライナ戦争で核使用をちらつかせたプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアのウクライナ侵攻を機に、日本でも自国の安全保障環境を問い直す議論が活発化している。核共有や敵基地攻撃能力といった問題提起は、国防の最前線に立つ自衛官の目にはどう映るのか。2019年春までの4年半、制服組トップの統合幕僚長を務めた河野克俊氏に話を聞いた。(聞き手、河合達郎、フリーライター)

──ロシアのウクライナ侵攻を巡り、どんなポイントに注目していますか。

河野克俊氏(以下、河野):今回、世界は核戦争を考慮した時に、軍事的に動かない米国の姿を見てしまいました。米国が国際秩序を維持する役割を果たすという、戦後、みんなが信じて疑わなかった前提の一つが崩れたのです。

 もちろん、中国もそれを見てしまいました。中国が台湾を軍事的に併合する場合、一番の懸案事項は米国の軍事介入です。今回、核戦争をチラつかせたら米国は動かない、ということが明らかになったのは、中国に大きな影響を与えることでしょう。

 実際のところ、私は、米国は台湾有事に際しては軍事介入すると思います。台湾の目の前には沖縄があるわけです。沖縄には海兵隊の主力部隊がいます。横須賀には第七艦隊がいます。岩国と佐世保にも米軍が展開しています。

 その目の前で火が吹いて、洞ヶ峠を決め込むなんていうことを米国がやれば、それはもう、同盟のネットワークに対する信頼は地に落ちます。米国も、国益にとってマイナスになるようなことはしないでしょう。

 ただ、日本にとって怖いのは、中国が核戦争をチラつかせればいけると、今回のウクライナ戦争を見て誤解する可能性があるということです。

 米国は今、台湾に関して軍事介入するともしないとも言わない「曖昧戦略」をとっています。力による現状変更を試みようという感情を引き起こさせないために、米国は軍事的に介入するということを明確にした方がいいんじゃないかと思います。

制服組のトップである統合幕僚長を務めた河野克俊氏(写真:AP/アフロ)