西側の金融機関に思わぬ反動
しかし、中国は別の反撃手段を見いだすかもしれない。特に考えられるのは、西側の政府や企業が中国国内に保有する多額の資産の差し押さえだ。
米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のジェラルド・ディピポ氏によれば、昨年末時点で外国人が保有する直接投資(工場など)の規模は3兆6000億ドルに上り、株式や債券、およびそのほかの「ポートフォリオ(間接)」投資も2兆2000億ドルに達している。
合計すれば、外国人がロシアに保有する資産の6倍以上になる。
西側諸国が中国の中央銀行だけでなく民間金融機関にも制裁を科したらどうなるだろうか。まず、西側機関が金融の「ブローバック(意図せぬ反動)」にさらされる恐れがある。
主要国の金融当局で構成される金融安定理事会(FSB)によると、「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)」30行には、中国の銀行が4行含まれている。
この4行を機能不全に追い込めば、これらの銀行に資金を貸したり口座を開設したりしている西側金融機関も打撃を被りかねない。
では、中国の銀行を切り離しても自分たちの金融の安定性は揺るがないと西側諸国は確信できるのか。答えは「ノー」だ。
有力金融機関でつくる国際金融協会(IIF)のクレイ・ラウリー氏はそう語る。「私はその確信は持てない」。
金融制裁は貿易にも波及
こうした手段は貿易にも大混乱をもたらす。
中国が昨年行った貿易取引のうち、人民元で決済されたものは2割にも満たない。残りの大部分は米ドル建てだ。
米ピーターソン国際経済研究所のマーティン・チョルゼンパ氏は「保険と貿易信用を利用できなくなれば、かなりの量の経済活動が消滅する」と指摘する。
中国は120を超える国々にとって最大の貿易相手国であるため、貿易が混乱すれば世界のほかの国々が米国とその同盟国に反感を抱くようになるかもしれない。
西側諸国にも打撃が及び、結束と決意が揺らぐ恐れもある。
中国からの輸入が輸入全体に占める割合は米国で約18%、欧州連合(EU)で22%超に達しており、そこには国内で生産するモノの部品などが多く含まれている(図参照)。