「クソみたいな仕事」を増殖させるレント資本主義
──ブルシット・ジョブが増殖する仕組みについて、「経営封建制」や「レント資本主義」というレンタル料の徴収とそのバラマキを用いて説明されています。東京五輪の例なども挙げられていますが、こうした現象に対する酒井先生のお考えを教えてください。
酒井:『ブルシット・ジョブ』でグレーバーは、現在の資本主義の在り方を「経営封建制」として特徴づけています。その背景には、今の資本主義が「レント資本主義」と言われるような、生産や製造からではなく、不動産や株、投資、金融などのサービスを通じて利益を上げるという形態にシフトしていることが挙げられます。著作権や知的所有権というような使用料を取り、利潤を上げる形態も、実は封建制に近い。
封建制は基本的に農業社会で、君主や王が所有する土地を臣下に貸し与え、その臣下も貸し与えられた土地を細分化してみずからの臣下に貸し与え、さらに貸与された土地で農民たちが農業を営み、その対価として賦役、現物、金銭という形で富を徴収されていました。
現在の資本主義も、これまで蓄積されてきた価値だとか、人が作ったものを買い上げて商標登録や著作権をつけ、そこから利潤を上げていく形に変わりつつあり、「略奪資本主義」とも呼称されています。このように資本の在り方がパラサイト的な形態に変わっていることがブルシット・ジョブ増殖と結びついているのではないか、というのがブルシット・ジョブの理論です。
東京五輪の不祥事は、この実態が見えやすい実例でしょう。
東京五輪には莫大な税金が投入され、電通やパソナのような企業が業務などの委託を受け、様々な現場を回していきました。その途中で、不明瞭な名目で莫大な報酬が支払われていたことを示す書類が出てきて、大きなスキャンダルになったわけです。恐らく色々なポストや実質的にはどのような内容なのか分からない仕事が作られ、ばらまかれていたのでしょう。
一方で、その下位にあるイベントの運営になくてはならない重要な役割、すなわち医療や通訳、会場案内といった領域はボランティアなどが無償や低賃金で支えていました。巨大な資金の吸い上げ、ばらまきがあり、エッセンシャル・ワークには資金が回らない。ここに典型的なブルシット・ジョブとその背景にある現在の資本主義の構造が如実に表れていました。
これは、現在の資本主義のシステムが存続するための方向でもあると思います。