都合の悪いことは聞きたくない独裁者に、怖くて本当のことを言えない取り巻き。密室で事態が進行して、思うようにいかなければ側近を処罰して遠ざけ、孤立していく。そんなプーチンはオウム真理教の教祖だった麻原彰晃にそっくりなことも以前に書いた(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69354)。
麻原は目が見えなかったこともあって、側近たちの言葉が情報を得る最大の手段だった。それも悪い知らせは聞きたくない。そういうときは怒り出す。本音を言え、と言って意見を求めた弟子のひとりが本音を語って逆鱗に触れたエピソードもあった。それを見て知っているから、まわりは怖くて真実を話せなくなる。場合によっては命を奪われることもある。そうすると情報源は限られ、教祖は孤立していく。
強迫の構図ができる。絶対的権威には逆らえない。いずれもカルトと呼ばれる組織の特徴である。バイデン大統領は26日にワルシャワで行った演説の中でプーチンを名指しし、「この男が権力の座に居座ってはならない」と発言した。
そのことが内政干渉にあたるとして同盟国から懸念の声があがった。すぐに米国政府は火消しにまわり、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「バイデン氏が決めることではない。ロシアの大統領はロシア人によって選ばれる」と表明している。
だが、2020年にも対立する政治指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏を毒殺しようとして、欧米諸国から非難を浴びたように、それまでにも政敵暗殺の疑惑は尽きないところで、民主的に選ばれた大統領といえるだろうか。取り巻きを怯えさせ、ウクライナの侵攻も密室で決められたとすれば、少なくともプーチン政権はカルトに近い。
独裁者と現場、それぞれの暴走
プーチンに正確な情報が伝えられていないことについて、ウクライナとの停戦交渉への影響を危惧する声も多い。自軍がどれだけ劣勢にあるのか知らなければ、なかなか合意にも結びつかないからだ。
だが、それよりも懸念すべきは暴走だ。正確な情報を得ないが故に、無茶な指示を出すかも知れない。地下鉄にサリンを撒けばどういう結果になるのか、誰も進言しなかったように、プーチンの側近も結果についてなにも言及しない。あるいは、孤立が正常な判断を誤らせる。追い詰められていく感覚が、暴挙に向かわせてもおかしくはない。
狭い世界であれば、いわゆる通り魔事件を起こす犯罪者の背景にも同様の心理がある。欲求不満のストレスと孤立が破滅的な思考へと落としこみ、凶行に走らせるのだ。
一方で正確な情報をあげられない現場が、勝手に暴走することもある。「赤い森」に塹壕を掘ってもぐるほど愚かなことはない。ソ連時代の事故を知るプーチンが、そこまでのことをさせただろうか。その間抜けさで上司へのよい報告を希求するあまり、指示にないことを現場判断で引き起こしかねない。現場と指揮が噛みあわないのであればなおさらだ。
われわれが、ロシア軍が予想よりも弱いことを嘲笑したとしても、いつどこに落とし穴が待っているか知れない。「赤い森」からの撤退とプーチンの情報隔離はその危険を物語っている。