他国のリスクはわがチャンスなり
香港に隣接した「中国のシリコンバレー」こと深圳(しんせん)の小型家電メーカー経営者が語る。
「1991年に旧ソ連が崩壊した時、新生ロシアは大混乱の中で出帆した。その頃、少なからぬ深圳の部品メーカーがロシアに進出して、成功を収めたものだ。
中でも最も成功したのが、1987年に深圳で創業したファーウェイ(華為)だ。ファーウェイは香港を経由して安い電話交換機を中国国内に仕入れていたが、まったくうだつが上がらなかった。
それで1996年に、混乱の新生ロシアに進出した。そうしたら熱烈歓迎され、一財産を築いた。このロシアでの成功が、いまの『ファーウェイ帝国』の原点となった。
あの時以来、30年ぶりの『ロシア特需』がやってきた。何せ欧米日などのハイレベルな企業が、ロシア市場から一斉に撤退してくれたのだ。中国企業にとって、これほど千載一遇のチャンスはない。この2年続いたコロナ禍によって、深圳はいまもロックダウンが敷かれたりして大変だが、久々に朗報がもたらされた」
世界のどこかの地域が危機に陥ると、中国企業が進出攻勢をかけるというのは、過去に何度も見られた現象だ。例えば約10年前のギリシャ危機の時、私は北京に住んでいたが、中国企業や中国人観光客が大挙してギリシャに向かったのを覚えている。
当時は中国政府の官僚たちでさえ、「パルテノン神殿を中国が買い取れないか」とか、「1人あたり10万ドル出して100万人を移民させ、中華街を作れないか」などと、半ば真顔で言い合っていたのだ。中国社会というのは、そもそも日本などと較べてはるかに高リスク社会なので、他国のリスクはわがチャンスなりという発想を持つのである。