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安倍晋三元首相を中心に「核共有」のタブーなき議論を求める声が高まっている(2022年1月17日第208通常国会、写真:AP/アフロ)

(文:村野 将)

ロシアの核恫喝を目の当たりにして、「核共有」を取り入れよとの議論が俄に脚光を浴びている。しかし、日米の拡大抑止強化で重要なのは、核兵器そのものの共有ではない。日本がNATO型核共有に踏み出せば、むしろ東アジアの「危機における安定性(crisis stability)」を著しく悪化させる危険がある。

「核をめぐる安全保障課題と日本の対応 前編」はこちら
ロシア「核恫喝からのエスカレーション」を止める唯一の方法
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69271

 ウクライナ危機でロシアがとったエスカレーション抑止戦略は、台湾有事や朝鮮半島有事においても当てはまる。現状変更勢力である中国・北朝鮮にとって、有事において米国の介入を阻止することは決定的に重要だ。そのため、米軍の作戦支援基盤となる日本社会をミサイルで脅し、「米国(と台湾・韓国)を支援しなければ、日本を攻撃対象とすることはない」として、日本世論の「巻き込まれる恐怖」を増幅させようと揺さぶりをかけてくることは容易に想像できる。そして、その脅しが通用しなければ、実際に航空基地や港湾などを攻撃して、日本の支援能力を無力化することを考えるであろう。

 こうした中国・北朝鮮による心理的恫喝や物理的妨害に屈しないためには、日米の抑止力が効果的に発揮される状態を維持・強化しておく必要がある。そのためには、どのような具体策が有効なのか。

 その一例として、NATO(北大西洋条約機構)型の「核共有(nuclear sharing)」を日本でも取り入れるべきとの主張がたびたびなされてきた。

「核共有」とはどのようなメカニズムか

 核共有とは、NATO加盟国の一部に米国が管理する非戦略核兵器*1(B61核爆弾)を平時から前方配備しておき、危機・有事が発生した場合には事前に策定した共同作戦計画に基づいて、米国大統領の許可の下で核爆弾を供与、同盟国の核・非核両用機(Dual Capable Aircraft:DCA)がそれを搭載して核攻撃を行うというメカニズムである。米・NATO間では現在でも、100発程度とされる非戦略核の配備と、その協議枠組みとしての核計画部会(Nuclear Planning Group:NPG)が継続されている。

*1 近年米欧の戦略コミュニティでは、「いかなる核兵器であっても、使用されれば戦略的影響をもたらす」という観点から、いわゆる「戦術核兵器」という呼称は用いられなくなっており、現在では米露の新START条約の規制対象となっている兵器を「戦略核兵器」、それ以外は「非戦略核兵器」と呼び分けをするようになっている。

 またこれに関連して、非核三原則のうち「持ち込ませず」の原則を緩和し、米国による核持ち込みの意義を検討するべきとの提案がなされることもある。

 では、米国による核持ち込みやNATO型の核共有モデルを今日の日本に適用させた場合、地域の拡大抑止構造にどのような影響を与えることが考えられるのか。

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