北朝鮮:軍拡競争の引き金になる

 AUKUS創設に真っ向から反対したのは無論、中国だが、北朝鮮が直ちに非難声明を出した。朝鮮中央通信は2021年9月20日、北朝鮮外務省当局の声明としてこう報じた。

「AUKUSの創設は極めて望ましくない。アジア太平洋地域の戦略的なバランスをひっくり返しかねない。この地域における軍拡競争の引き金になる」

「この行為は、中国を含む近隣諸国が、この地域の平和と安定をぶち壊し、国際的な核拡散システムを無効にし、軍拡を促進させる無責任な行動の一つだと非難しているのも極めて自然なことである」

https://www.washingtonpost.com/world/2021/09/20/north-korea-submarine-nuclear-aukus/

せっかくの新型長距離巡航ミサイルも無力化

「AUKUS創設はただ中国を標的にし、中国だけを封じ込めるためではない」

 そう言い切るのは、ニューデリーにあるMPIDA(マノハー・パリカー国防研究分析研究所)のパンダ上級研究員(東アジア研究部門コーディネーター)である。

 同氏は、「AUKUSが北朝鮮にとって持つ意味は何か」(What AUKUS Means to North Korea)と題する論文を権威ある北朝鮮問題専門サイト「38North」に寄稿した。

https://www.38north.org/2021/12/what-aukus-means-to-north-korea/

 同氏は、「オーストラリアへの原子力潜水艦技術供与が北朝鮮に与えたインパクトは計り知れない」と指摘する。

 特に北朝鮮が9月11、12日の両日、新型長距離巡航ミサイル発射実験を行った直後だったことを挙げている。

 米第7艦隊だけではなく、豪原潜の巡航ミサイルの迎撃で無力化されてしまうからだ。

「米英豪が、軍事技術の共有、情報収集から多国間の全分野まで協力するという取り決めは、北朝鮮の安全保障環境におけるリスク評価に測りがたいインパクトを与える可能性がある」

「北朝鮮が将来どうするのかを決める行動に大きな影響を及ぼすからだ。この新たな軍事同盟が持つ影響力の全貌や、北朝鮮の核武装化への阻止力については即断できない」

「だが、オーストラリアの米軍事力への補完が中国だけでなく、北朝鮮がこれまでの戦略地政学上の足跡に疑問の余地のないほど明白なインパクトを与えるのは間違いない」

 金正恩氏が12月の演説で「防衛力を少しも遅らせてはならぬ」と強調した背景には豪原潜配備が念頭にあることは間違いない。