フィギュア選手の靴、ブレードを理想に導く職人、橋口清彦の情熱(第1回)
宇野昌磨「ジャンプの好調」を支える柔らかい靴ともう1つの変化(第2回)

文=松原孝臣 写真=積紫乃

選手の声にどれだけ耳を傾けるか

 スケート靴、靴に付けるブレードなど「足回り」のメンテナンスを手掛ける職人、橋口清彦は、選手の声にいかに耳を傾けるかを大切にしてきた。

「どうしてほしいのか、現状からどうかえたいのか、好み、それら要望を細かく聞き、それに合うよう必死に考えます。いつも言っているのが『もしやってみて駄目だったらすぐ手直しするので言ってほしい』ということ。信頼を築くことがいちばん大事だと思っています」

 その姿勢もあって、「長年、つきあいのある選手たちも多くなりました。例えば大庭雅選手とは十数年という時間になりますね」。

2021年11月、西日本選手権でFS「タイタニック」を演じる大庭雅 写真=YUTAKA/アフロスポーツ

 今年26歳になる大庭は社会人スケーターとして競技活動を続け、2年ぶりに全日本選手権に出場する。実に10度目を数える。大庭に限らず、子供の頃から知るスケーターは多い。

「気兼ねなく話してもらえる理由だと思います」

 

高難度ジャンプ化による懸念点

 数多くのスケーターと接する中で、橋口が気になることがあると言う。

「フィギュアスケートは、男子も女子も、より難しいジャンプを、という流れがメインになってきていますよね。そのため、ジュニアの子でも、堅い靴を使う傾向になっています」

「ジャンプのためには堅い靴を」が通念となっていることは、前回の記事でも触れた。だが硬い靴を使用することが悪影響ももたらすと橋口は語る。