監督は「美しい」と何度も口にして、カメラテストのために服を脱ぐようビョルン少年に指示を出す。何もわからぬまま、恥ずかしそうに服を脱いでカメラの前に立つビョルンの姿はまだ子どもで、あまりに素直過ぎて、自分の身にこれから何が起こるのか、まるでわかっていない。当然、採用が決まり、撮影が始まってもビョルンはまだバケーションに訪れているような、どこか夢心地のような気持ちでいたろう。

© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

16歳になった少年を「老けた」と切り捨てたヴィスコンティ

 1年後、エリザベス女王も訪れた英国ロイヤル・ワールド・プレミアで監督が「世界で一番美しい少年」とビョルンを紹介。彼の人生は大きく動き出す。カンヌ国際映画祭では25周年記念賞を受賞。多くの人々が映画に、そしてビョルンに熱い視線を注いだ。

 たいていの映画は撮影から、編集を経て、出来上がるまでに1年以上、かかる。監督はビョルンを美少年と認めながら、最高に美しかったのは15歳の映画撮影の時と断言。記者会見で16歳になったビョルンを隣にしながら、「当時は完璧な美しさだった。いまは老けたよ。背も伸びたし、髪も長すぎる。もう年寄り過ぎる」とはっきり切り捨てた。求められた究極の美。それが色褪せた後の彼は監督にとって、飽きたおもちゃ同様だったのか。

 監督が手放しても、世の中は放っておかなかった。祖母に育てられたビョルンは彼女の勧めで日本に渡る。そこで待っていたのは熱狂的な女性の声援。なかには興奮のあまり、彼の髪を切ろうとする者までいた。