しかし、急いだあまり、厳しい対策の副作用までは十分に考慮に入れなかったようである。まさに「省あって国なし」、「局あって省なし」であり、忖度官僚の暴走が続いている。今回は国土交通省の航空局である。縦割り行政の弊害を糺すのが、首相の役割である。コロナ対策で安倍・菅政権の失敗を繰り返したくないのは分かるが、手法を変えなくてはどうしようもない。政策決定過程が不透明である。
厚労省、国土交通省、経産省、航空会社などの知恵を集めて方針を決定するというプロセスが無かったようであり、拙速主義という批判は免れない。その点では、「Go To トラベル」や「Go To Eat」の政策決定過程とあまり変わらないような感じである。
日本を念頭に置いて、WHOは、全世界を対象にするような過剰な水際対策や規制を批判しているし、また南アフリカの大統領は、「公衆衛生上のアパルトヘイト」だとして、自国に対する渡航制限に不満を表明している。全人類のためにデータを公表したのに、そのために高い代償を支払わねばならないことに我慢がならないようである。
水際対策の効果は限定的
そもそも水際対策は100%万全ではない。私が厚労相として対応した新型インフルのときも、空港などで徹底した水際対策を実行したが、海外渡航歴のない人から最初の感染が確認された。つまり、ウイルスは厳しい防護壁を乗り越えて入国していたのであり、市中感染がすでに広まっていたということである。空港などでの検疫をすり抜けるケースもあり、水際対策の効果は限定的である。
ナミビアでは、10月に検出されたコロナウイルスの検体からオミクロン株が見つかったという。つまり南アフリカが公表する前から、この変異株が存在していたということである。イギリスなどの感染状況を見ても、海外渡航歴のない感染者が見つかっており、すでに市中感染が広まっていると思われる。そうなってからは、水際対策はあまり意味をもたなくなる。公衆衛生関連の限られた人的資源を水際作戦から市中感染対策に配分せねばならない。