カッコいい?(Roman Samborskyi/shutterstock.com)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 多くの日本人が嬉々として使っているが、ひょっとしたらバカ言葉ではないのかと思われる言葉のひとつが、「やばい」(やべえ)である。

 元々は否定的な意味しかなかったのだが、いまでは肯定的な意味(「旨い」「すごい」のような)として使われることが多いようである。所詮、若者言葉だろうと思っていたら、俳優の堤真一(57歳)がNHKの「ファミリーヒストリー」の中で、「やべえ」といっているのをみて驚いた(カメラを意識して、あえて使ったといえなくもないが、ふだん使っていなければすぐには使えない)。

 この言葉をあたり前のように使っている人は、これがバカ言葉か否か、などみじんも考えはしないだろう。息をするように、ごくふつうに使っているのだ。なかには、みんなが使っている言葉を躊躇なく使うイケてるおれ、と意識している者もいそうである。とくに中年以降のおとなに。

 ちなみに「バカ言葉」とは、自分のボキャブラリーの貧弱さゆえに、肯定も否定も、感動も嫌悪も、つまり自分の感情や感覚のほとんどを、神経反射のように一語で表そうとする言葉のことである。しかし本人はその言葉を使うことを、全然恥ずかしいことだと思わず、むしろ「ナウい」と思っている(この場合も「古いね」といわず、「古っ」というのが今風だ。「うまっ」「デカッ」「早っ」)。これをさらに強調したいときは、頭に「めちゃくちゃ」や「めっちゃ」をつければいい。バカ度がさらに上がるが。

どんなときにも使える「カッコいい」

 そのようなバカの疑念がある言葉に「カッコいい」がある。この言葉が使用される頻度は「やばい」以上である。われながらご苦労なことだと思いながら、その使用例をテレビから採集してみた。以下、ランダムに羅列する――。

 美容師二人、バナナマン日村勇紀の髪型について「ああ、めちゃめちゃカッコいいと思います」。
浦沢直樹が、さいとうたかおが鬼平を描くのを見て「この後れ毛がカッコいいよね」。
いとうせいこうが町の粋なじいさんを評して、「これがカッコいいんだ」。
44歳のパチスロライターが生前葬の動画をSNSで配信、それを見たファン「マエダさん、カッケーわ」。
テレ朝「帰れま10」のマクドナルドの回、9連勝したあとシソンヌ長谷川が「ムロ(ツヨシ)さん、これ決めたらカッコいいすよ」。
女子サッカープロリーグWEリーグの試合を見た女子ファン、「みんな頑張っていてカッコよかったです」。
TBS「ぴったんこカンカン」で、米倉涼子が高価なかんざしを買ってもらえるとわかって、「買ってもらえるの? 安住さん、カッコいい!」。
田中陽希、北海道のニペソツ山を登りながら「ニペソツ、カッコいいねー」。
NHK Cool Japanのキャッチフレーズは「発掘! かっこいいニッポン」。
東大の赤門を見て、中1少年「カッコいい」。
松本人志、おぼんこぼんの仲直りの漫才を見て「カッコいいよね」。
乃木坂46山崎怜奈、三十三間堂の雷神像を見て「カッコいい」。
700万円で買ったベントレーを運転する藤田ニコルのインスタグラムに、フォロワーは「カッコよすぎる」。