(英エコノミスト誌 2021年10月30日号)

トルコのエルドアン大統領(10月16日撮影、写真:AP/アフロ)

だが、レジェップ・タイイップ・エルドアン氏は終わったと見なすのは時期尚早だ。

 西側世界の同盟国と一戦交えることは、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が常に楽しむことだ。

 10月23日には一度に10カ国を相手にした。

 米国、フランス、ドイツ、オランダ、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、およびニュージーランドの駐トルコ大使をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)に指定するよう命じたと発表したのだ。

 こうした指定は大使をトルコから追い出す前触れだ。

 大統領が問題視したのは、テロとクーデターを企てたというばかげた容疑で身柄を拘束されている慈善家、オスマン・カワラ氏の釈放をトルコ政府に促す書簡に大使たちが署名したことだった。

 そんなことをしたら自国の経済が悲惨な状況に陥りかねないというトルコ政府高官の警告と助言、そして米国大使館が注意深く作成した声明文(同大使館はこのなかで、トルコの国内問題には干渉しないと述べている)を受けて、数日後にやっとエルドアン氏は矛を収めた。

 各国大使は首都アンカラに残ることを許された。

 トルコにとって数十年ぶりの深刻な外交危機になりかねない挑発的な行動を取り、結局これを回避したエルドアン氏は、勝利を宣言した。

 大使たちが「我が国への中傷を一歩後退させた」と述べ、「今後はもっと気をつけるだろう」と締めくくった。

最悪のスランプに陥った大統領

 このエピソードと、その後のほくそ笑むような発言からは、エルドアン氏が祝福できる材料をひどく必要としていることがうかがえる。

 トルコの指導者は現在、その長い政治家生活において最悪に数えられるスランプに陥っている。

 世論調査では、世俗主義の共和人民党(CHP)と民族主義を掲げる「優良党(IYI)」の2大野党の連合が、エルドアン氏の率いる公正発展党(AKP)と民族主義者行動党(MHP)による与党連立政権を支持率で上回っている。

 もし総選挙が明日行われたとすれば(現職議員の任期は2023年までで、議会選挙は大統領選挙と同時に行われる)、連立与党は過半数を割り込むことになる。