(英エコノミスト誌 2021年10月16日号)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者数の最新統計が執拗にチェックされていたのは、それほど昔の話ではない。それが今では、インフレ統計について同じことが行われている。
10月13日に発表された統計によれば、米国の9月の消費者物価指数上昇率は前年比で5.4%に達し、大方の予想を上回った。
その前日にはニューヨーク連銀の調査結果が公表され、消費者の期待インフレ率が若干上昇したことが示された。
また国際通貨基金(IMF)は半期に一度の「世界経済見通し」で、インフレの見通しは「かなり不確実だ」と警鐘を鳴らしている。
エネルギー・コストの上昇は近いうちに消費者物価を押し上げるだろう。働き手が不足している一方で需要が急増していることから、賃金も急上昇している。
では、この賃金上昇は物価の上昇に拍車をかけることになるのだろうか。
反動だけでは説明のつかない賃金上昇
COVID-19が初めて猛威を振るった時には、企業経営者は従業員のボーナスと年次昇給をカットするだろう、下手をすると2007~09年の世界金融危機の後にやったように基本給さえ引き下げるかもしれないとの見方が大勢を占めた。
パンデミックの初期段階では実際に賃金の伸びが多少鈍ったものの、その後はタガが外れている。
コンサルティング会社のオックスフォード・エコノミクスによれば、富める国々の賃金はパンデミック前の平均を大幅に上回るペースで上昇している。
主に豊かな国が加盟する経済協力開発機構(OECD)では、就業者1人当たりの報酬が同じくらい顕著に伸びている(図1参照)。

賃金の統計はパンデミックの最中に、誤解を招く動きを見せることが時折あった。
例えば、ロックダウン(都市封鎖)が導入された際、サービス業に携わる低賃金の従業員が解雇されて平均賃金の計算対象から外れたことは、統計担当者が計測する平均賃金を押し上げる方向に作用した。
だがそれでも、足元の賃金の伸びは、景気の失速ぶりが激しかったことだけでは説明し切れないほど強いように見える。