(英エコノミスト誌 2021年10月9日号)

中国のCPTPP加盟申請はなかなか抜け目がない(写真は広州市の夜景)

中国がCPTPP加盟を目指す動機は、良性なものから心配なものまで様々だ。

 中国は時折、的確な決断を抜け目なく下す。そうでない時は重大な過ちを犯しかねず、邪悪な行動に走ることすらある。

 だが、中国政府が愚かな真似をすることはめったにない。特に、高官たちは最高指導者である習近平国家主席の威信を気まぐれで危険にさらすようなことはしない。

 その意味で、一見無味乾燥だが、示唆に富む重要な動きに対する諸外国の冷淡な反応を考え直してみる価値がある。

 9月16日、中国は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、通称TPP11協定)」への加盟を正式に申請した。

 アジアと米州の11カ国で構成され、計5億人の消費者が暮らす貿易圏だ。申請は唐突だったが、予想できたことでもあった。

 習氏は何カ月も前に、中国は加盟申請を「前向きに検討する」と述べていた。習氏の言葉は法律に等しい。

 しかし、外国のアナリストの多くは(そして、非公開の場では一部の外国政府高官も)、中国の申請は絶対に認められないと自信たっぷりに予言している。

中国のCPTPP加盟は無理?

 懐疑的になるのは理解できる。

 市場の開放と公正な競争の名の下にCPTPPの現加盟国――オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム――は大手国有企業への補助金支給を制限すること、国境を越えるデータの流通の大半を認めること、強制労働を禁止することなどで合意している。

 国家統制主義や国家安全保障重視の姿勢をここ数年強めている中国がこれらの基準を満たすのは難しそうに見えるとしたら、それは決して偶然ではない。

 CPTPPは、かつて米国主導で合意された「環太平洋経済連携協定(TPP)」の落とし子だ。

 TPPは、ブッシュ政権とオバマ政権がアジア太平洋地域をルールに基づく自由貿易の砦にすべくこしらえた仕組みで、中国は国家が支配する資本主義のモデルを改革するか、自由貿易の輪の外に留まるかという選択を迫られた。

 ところが、そこへドナルド・トランプ氏が登場した。