建築を学ぶ人ならば誰でも知っている名著の1つに、『街並みの美学』(1979年)という芦原義信の著書がある。建築を都市のパブリックスペースとしてデザインすることの重要性を説いた先駆的な本だ。芦原の代表作の1つに駒沢オリンピック公園の「駒沢体育館」(1964年)があるが、芦原は屋外広場の設計の中心にもなった。あの一面に敷石が広がる中央広場は、50年以上たった今も多くの人でにぎわう。まさに「都市のパブリックスペース」といえるだろう。
芦原は芸劇でも、単なる便利な劇場ではなく、都市のにぎわいを生むパブリックスペースを目指した。駒沢のように全部を屋外広場にするのではなく、アトリウムにこだわった。おそらくそれは「池袋駅から見たときのシンボル性」を重視したからだろう。その証拠に(と言っても筆者の勝手な見立てだが)、正面の大きな逆三角形の屋根面は、上に小さなトンガリが付いていて、「ここだよ!」とエントランスを示す「下向き矢印(↓)」に見える。
外観のシンボル性の高さは誰もが納得するところだったと思うが、アトリウムの内部については当時、賛否があった。いやむしろ否が多かったかもしれない。これは現在の写真。