(写真はすべて宮沢洋撮影)

(宮沢 洋:BUNGA NET編集長、編集者、画文家)

 Office Bungaの事務所のある東京・池袋駅周辺の良質な建築や挑戦的な建築を紹介していきたい。最初に取り上げるのは、池袋西口から徒歩5分(我々の事務所からは徒歩1分)、駅前通りと立教通りの分かれ道に立つ「池袋二又(ふたまた)交番」だ。

 1980年代から90年代初頭にかけて展開された東京都の文化デザイン事業、通称「デザイン交番」の1つとして1992年に完成した。デザイン交番は、「町のシンボル」となる交番づくりを目指す事業で、第一線の建築家を起用して20以上の交番が建設された。有名なものには、黒川哲郎+デザインリーグによる「上野警察署動物園前交番」(1990年竣工)や、妹島和世による「調布駅北口交番」(1994年竣工、2008年に解体)などがある。

二又交番の設計者は林賢次郎

 池袋二又交番の設計を担当したのは林賢次郎。1942年生まれで、丹下健三・都市・建築設計事務所を経て、80年に林賢次郎・建築設計事務所を設立した。住宅や中規模のオフィスビルなどに佳作が多い。この交番以前に公共建築の実績はなかったが、東京都設計候補者選定委員会の推薦で設計者に抜擢された。

 地元のひいき目もあるとは思うが、同時期に建設されたデザイン交番の中で、個人的には一番いいと思う。

 円柱から切り取った3つの形をくっつけた単純な造形ながら、見る方向や時刻によって多様な見え方をする。曲面ガラスの出入り口は、交番独特の閉鎖感を軽減している。