(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

 菅義偉首相は、安倍晋三政権下で約8年間の長きにわたって官房長官を務めてきた。その時から、記者会見の数は多いが中身のあることを喋らないのが最大の特徴だった。記者の質問にもまともに答えたことを知らない。説明を一切しないというのが、この人の記者会見だった。こんな人物が首相になっても国民に訴える力を持たないであろうことは、誰の目にも分かることだった。

 首相になってからの記者会見もひどいものだった。記者の質問にまともに答えたのを見たことがない。答えないから記者が再質問すると「ルールを守って下さい」と切れそうな表情を浮かべる。あげくには仕切り役の女性を叱りつける始末だった。若い記者から、「原稿棒読み」などと馬鹿にされても反論も出来ない。いつも記者会見を見ながら、「恥ずかしくないのだろうか」と思ったものだ。

 総裁選不出馬の会見も2分ほど一方的に喋っただけだった。「逃げるんですか」と記者の声が飛んだが、逃げて行ってしまった。この人物を見ていると国民に語るのが嫌なのではなく、語る言葉、説明能力が決定的に欠如しているのだと判断するしかない。そもそも首相の器ではなかったのだ。

 しかし、こんなことは実は最初から分かっていたことだ。私は、昨年(2021年)からこのことを何度となく指摘してきた。ところが昨年の自民党総裁選では、岸田文雄89票、石破茂68票に対して、377票を集めて圧勝した。「安倍政治を継承する」として、各派閥からの支持を受けたからだ。菅政権を作ったのは自民党議員であり、その責任は大きい。

 政治学者、御厨貴(みくりやたかし)さんが、9月4日付朝日新聞で次のように述べられている。「厳しい言い方ですが、この1年、日本は首相が空席だったようなものです。世界的なパンデミックの中、国民と危機感を共有し、メッセージを発することが指導者には求められるはず。それが、首相の発言や行動がまったく重んじられなくなってしまっています」。