菅義偉首相と安倍晋三前首相。写真は安倍政権時代の2020年4月に撮影されたもの(写真:つのだよしお/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

「総理」と「草履」は使い捨て――。

 いまから20年前に小泉純一郎内閣が立ち上がった頃に目にしたコラムのタイトルだ。書いたのは心理学者の岸田秀。「ソウリ」と「ゾウリ」の語呂合わせだけでなく、どちらも新品は好まれるが、すり切れてきたらそのまま捨てられておしまい、ということを説いていた。言い得て妙だと記憶に残っている。

安倍政権の「尻ぬぐい」に奔走したのにあっさり使い捨て

 菅義偉首相の突然の退陣表明で、その言葉が浮かんだ。ちょうど1年前、安倍晋三前首相の体調不良による辞意を受けて総裁選への出馬を表明すると、自民党の各派閥は我先にと支持を表明。圧勝の流れができあがってそのまま総裁に就任すると、高い支持率で政権が発足したはずだった。

 それからわずか1年。任期満了が近づく総選挙を前に、「菅では戦えない」という党内の「菅離れ」が加速すると、首相は今月に予定された総裁選前の解散を模索して挫折。すぐさま党内人事の刷新で求心力を回復させようとするも頓挫。総理総裁の権力の源泉である「解散権」と「人事権」を封印されて、あれよあれよという間に総裁選不出馬、退陣へと追い込まれた。これほどまでに見事な使い捨てもあるまい。

 もっとも、ここまでの展開を見る限りは、安倍長期政権の「尻ぬぐい内閣」あるいは「しんがり内閣」と言ったほうが正しいかも知れない。

 任期をあと1年残しての安倍前首相の辞任で、政権発足以来の官房長官を務めていた人物があとを引き継ぐ。そのまま新型コロナ対策に取り組み、1年延期を決めた東京オリンピック、パラリンピックを無観客でも開催して帳尻を合わせる。使い終わったように前政権の任期を満了してお払い箱になる。