(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
東京オリンピック開会式は、韓国の文在寅大統領が菅義偉総理と首脳会談を行う、唯一かつ最後のチャンスになるだろう。
菅総理は、6月に英コーンウォールで開催されたG7の場で文大統領と同席することになったが、そこでも短時間の会談でさえ行わなかった。オリンピック開会式出席に伴う首脳会談は、本来は成果を求めず、気軽に行える性格のものである。だからこそ文大統領が東京オリンピック開会式出席のための訪日を断念し、菅総理と気軽な首脳会談も実現しないとなった場合、今後の両者による首脳会談の可能性はほとんどなくなるであろう。それとともに、両首脳の下での日韓関係改善の可能性はほぼ消えるのではないだろうか。
文大統領の訪日に否定的雰囲気
文在寅大統領は、東京五輪開催に合わせた訪日に強いこだわりを見せてきた。
韓国内では、G7での首脳会談が実現しなかったことから、「文大統領が訪日しても日韓関係の改善につながるような実質的な首脳脳会談とはならないのではないか」との懸念がくすぶっていたが、文大統領は訪日を断念しなかった。
しかし、こうした雰囲気が先週末を転機に急旋回したと日刊紙「韓国日報」が報じている。
7月11日、日本のメディアは、「文大統領が東京オリンピックの開会式出席のため訪日し、菅総理との首脳会談を行うだろう」と相次いで報じた。「文大統領来日」に対する日本側の反応としては、菅総理が8日に「(文大統領が)訪日される場合、外交上、丁寧に対応するのは当然のことと認識している」としつつも、韓国が大統領訪日の条件とする「首脳会談」については「韓国側の参席者がまだ決まっていない」として具体的な言及を避けてきた。
11日、日本のメディアの論調は、おおむね「日本は首脳会談に応じるだろう」としながらも、「韓国側が徴用工問題、慰安婦問題の解決策を示さないようなら、短い会談で対処する」というものだった。そうした見方を裏付けるような日本政府関係者の発言も併せて報じたメディアもあった。
「韓国日報」によれば、日本メディアから出ている「韓国が具体的解決方案を提示すべき」という主張に、文大統領は相当な不快感を示し、外交当局に明確に対応するよう注文したらしい。韓国政府は16日まで日本と実務協議を行った後、文大統領の訪日を最終的に決定するという。