中国「ワクチン外交」の主要舞台となったASEAN、効果を高評価する国、しない国

 中国製のワクチンは東南アジア諸国にかなり行きわたっている。

 ASEAN各国は、中国が進める「一帯一路」政策を背景に、王毅外相が現地訪問をしてワクチンの無償提供を呼びかける「ワクチン外交」の主要舞台となったのだ。そして各国ともこれを受け入れてきた。

 ASEANの中でベトナムは中国製ワクチンを「粗悪と聞いている」として当初は受け入れなかった。しかし、在留中国人や中国に渡航する労働者らのためとして6月に50万回の中国製ワクチン提供を受け入れた。

 シンガポールは、国としては米ファイザー・独ビオンテック製とモデルナのワクチン接種を進めているが、シノバック製は扱っていない。だが、それとは別に民間クリニックがシノバック製のワクチン接種を行っており、中華系の人が多いこともあって人気もある。だが、シンガポール政府はコロナワクチン接種数の統計からシノバック製ワクチンを除外するとした。国の予防プログラムはあくまでファイザー・ビオンテックやモデルナのワクチンで進めるという意志の表明だろう。

 一方、カンボジアやフィリピンなどでは中国製ワクチンが高く評価され、政府主導で接種が積極的に進められている。それでもフィリピンでは接種率がなかなか上がらないため、ドゥテルテ大統領が「接種しない国民は投獄する」といった強硬姿勢を示して接種を促しているような状況だ。

 このようにASEAN各国は、大量の中国製ワクチンを受け取り、国内での接種を進めている。ただワクチン接種者の感染や感染死についてはインドネシアが飛びぬけて多い状況なのだが、おそらくこれは、インドネシア以外では報道が規制されていたり、保健当局が具体的データの公表を控えていたりする場合があるためとみられる。公表値が実態をストレートに反映しているとは言えそうにない。

 そうした中、インドネシアは例外的にシノバック製ワクチン接種者の感染や死亡のケースが報じられ、国民の不安も高まっているのだが、ジョコ・ウィドド政権が中国製ワクチンの有効性へ疑問を呈する態度は見せていない。国民はあいかわらず「感染したくないのなら中国製ワクチン接種を」という「踏み絵」を迫られている状況だ。

 この状況に、同国内の在留外国人の間には慌てて帰国しようという動きが出ている。インドネシア在留の日本人の間でも、事態の切迫を見て、家族だけでなく駐在員の一斉退去、一時帰国を決めた企業も増えてきている。目下、ジャカルタから日本に向かう航空機は満席状態が続き、なかなか予約が取れない状況が続いているという。