軍事の世界では情報戦は基本の戦いであるが、情報の85%はサイバー空間を利用して伝達・蓄積・分析・使用される。
情報戦の中で最近最もホットな分野は、サイバー空間、特にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス:ユーチューブ、ツイッター、フェイスブックなど)を悪用した影響工作(Influence Operation)だ。
影響工作では、偽情報や誤情報などを大規模に拡散することにより、影響を与えたいターゲットの脳などの認知領域に影響を及ぼし、その人の言動を思い通りにコントロールする。
中国やロシアが一番重視しているのが情報戦、特に影響工作だ。
そこで、本稿においては、中国やロシアが関与した影響工作を紹介するとともに、その影響工作に密接な関係がある米国の大統領選挙をめぐる陰謀論や新型コロナワクチンに関する陰謀論を信じてしまった人々について言及したいと思う。
中露の影響工作とデュープス
私はSNSを多用しているが、SNSは影響工作の主戦場になっているという実感がある。
そして、米国の大統領選挙や新型コロナウイルス感染症用のワクチンをめぐりSNS上で流布されている偽情報を簡単に信用し、その偽情報を自らも拡散する人たちの多さに驚いている。
私はこれらの人たちは、中国やロシアのデュープス(dupes)ではないかと思っている。
ここでいうデュープスとは、「明確な意思を持って中国やロシアのために活動しているわけではないが、知らず知らずのうちに中国やロシアに利用されている人々」のことだ。
中国やロシアなどの専制主義国家は、偽情報や誤情報を積極的に利用して影響工作を展開している。
中国やロシアの影響工作の目的は、米国などの民主主義国家の政治体制に対する疑念を抱かせ、社会を分断し、混乱させることである。
中国やロシアが影響工作を多用する背景には平時の徹底的な利用がある。
戦いには平時の戦いと有事の戦いがある。中国人民解放軍やロシア軍は、戦争(=有事)を仕掛けて米軍と交戦するのは不利だと思っている。
そこで平時における戦いを米国などの民主主義陣営に仕掛けているのだ。
中国やロシアは、その平時における戦いのなかで特に効果があるのが影響工作やサイバー戦だと評価し多用している。