超新星「カシオペア座A」から宇宙空間にぶちまけられた放射性物質チタン44(青色)。X線天文衛星NuSTARによる。 Image by NASA/JPL-Caltech/CXC/SAO.

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 近年、未知の生態系が発見され、注目を浴びています。私たちの足下、地下数kmの深さには、微生物の膨大な群集が存在するようなのです。そこにはもちろん日光は射さず、地表や海の生物に由来する物質も届きません。その生態系はいったい何をエネルギー源として生き延びているのでしょうか。

 そうした生態系は、どうやら地中の放射性物質からの放射線によって維持されているようなのです。本当なら、原子力生態系の発見です。

地下に広がる生態系

 生命はいたるところにはびこっています。酷暑や極寒、空気の薄い高山から高圧の深海まで、極端な環境でも何らかの生命がうごめいています。よもやこんなところに生命は生きられないだろうと思うようなところを探ると、そこに先住民が見つかります。

 2006年にはまた新たな場所から生命が見つかり、生命の活動範囲が更新されました。地面に掘った深さ2.8 kmの穴から採取した地下水に微生物が発見されたのです*1。ただちにDNA配列が読み取られ、「フィルミクテス門」と呼ばれる細菌の仲間と分かりました。

 また海底の地下にも、やはり海の生態系から独立した微生物の集団が見つかりました。

 ある推定によれば、これらを合わせると、地下には微生物がおよそ10^30匹住んでいて、地球の全生命の質量の数%を占めることになります。これは膨大な量です。地下にこんな隣人がいるとはびっくりです。

 それまでは、地下から見つかった微生物の記録は、せいぜい深さ1 kmまででした。そしてそういう浅いところの微生物の集落は、地上の生態系とつながっていて、地上の生物と基本的に同じ食べ物で生命を維持していると考えられます。つまり、そのエネルギーの源は太陽光だということです。

 地上の生態系は、いうまでもなく太陽光をエネルギー源としています。光合成を行なう植物が、二酸化炭素から炭水化物など化学エネルギーの高い物質を生産し、その植物を動物などが食べ、それをまた他の生物が食べ、そうやって生態系の全ての生命にエネルギーが分配されます。

 しかし深さ数kmには、地上の生態系に由来する物質は届きません。そこに封じ込められた生態系は、少なくとも過去数百万年間、地上からの補給なしに維持されてきたと考えられます。

 この膨大な量の生命は、いったい何を食べ、どんなエネルギー源によって維持されているのでしょうか。