これにより企業はどう変わるのか。

「先ほど離職防止と言いましたが、作ってみるともっと深かったんです」

“絶望感”の放置が離職を招く

 以前、守井社長は企業と被雇用者の関係について発言し、ネットで炎上したことがある。発言の一部が切り取られてのことだったが、アプリ開発のきっかけはこの舌禍だった。感情が豊かな人間なのだろう、つらそうに次のように話す。

「今も、当時不愉快な思いをさせた方に心からお詫びしたいと思っています。反省だけにとどまらず、多くの従業員に幸せになってもらう方法も考え続けました」

 具体的な開発は2018年頃から始まった。

「出勤すると、専務の机に社員の辞表があるのを眼にしました。しかもそれが、たまたま3通もあったんです。それまでも育児の都合などで退職をされる方はいましたが、3通もあれば会社に何か問題があるとわかります。

 様々な思いが巡りました。“専務も辛いだろうけど、一番寂しい思いをしているのはこれを書いた社員さんだろうな”と思いましたし、“私に言ってくれないのか”とも思いました」

 少し説明の遠回りを許してほしい。ビック・ママは洋服のお直しだけでなく、情報システムの開発・販売でも売り上げを伸ばしている。洋服のお直しは、一点一点顧客の要望が異なるため、対応するには店舗、配送、修理を行う拠点の連携が欠かせなかった。そこで、これを共有するシステムを自社開発し、改善を繰り返すと使い勝手が向上、他社にも売れたのだ。

ビック・ママの店舗

 その後、守井社長は自社の問題をITの力で改善し、他社へ販売するスキームを得意とするようになった。2番目の商品は、幼稚園・保育園向けのシステム「べびさぽ」。ビック・ママの社員は95%が女性で、育児の負担増による離職が多かった。そこで同社はこれを防止するため、保育園「ビックママランド」の運営も始めていた。一方、全国の保育園や幼稚園は、乳児が寝ている間にうつぶせになり、窒息して突然死する事故に悩んでいた。その状況を憂慮した守井社長は、睡眠中の乳児をカメラで見守り、うつぶせ寝になるか、もしくは一定時間動きがなくなると管理者に通知が行くシステム「べびさぽ」を開発したのだ。他社に販売すると、商品は「第12回キッズデザイン賞」を受賞し、全国に普及していった。