辞表を見たのは、そんな経緯のあとだった。彼はこの時、離職もシステム化で防げないかと考え、心理学者など様々な人物を訪ねて情報を収集していった。
「なかでも参考になったのは、社員が“辞める/辞めない”の選択をどんなタイミングで行うのか? ということです。答は“絶望感”でした。仮に“上司や幹部が問題に対処してくれる”と感じている場合、社員は改善を提案し、一緒に問題に取り組んでくれます。一方“この会社はどうせ変わらない”と感じると、社員は・・・」
守井社長が再び俯(うつむ)きながら言う。少し涙ぐんでいるようにも見えた。何人かの顔が思い浮かんだのかもしれない。
「会社に絶望して、辞めていってしまうんです」
不平不満がなくなり建設的な意見に
守井社長が「Mind Weather」の管理画面を見せながら話す。
「まず、嵐とピーカン晴れは明確な意思表示です。嵐がついたら、その社員さんは悩みを誰にも言えず助けを求めています。ピーカンの場合、この方は会社全体のためを思って動いてくれているということなので、ちゃんとコミュニケーションをとって、報いてあげるべきです。
アンケートに答えないことも1つの意思表示です。1~2回なら、たまたま忙しかったからかもしれませんが、当社の運用結果では、3回連続で回答がなければ、社員は何か思っています」
守井社長が話を聞きに行くと、社員は「いえ、言うべきことでもないと思っていたんですが、実はこんなことが」などと胸の内を話してくれる。彼が具体例を話す。
「おっとりした上長の部下に、仕事ができるパートさんがいました。そして上長はパートさんに“あなたがこうだから現場が苦労する”などと厳しい口調で迫られていたんです。現場を見ると、パートさんはほかのパートさんを味方に付け、上長を辞めさせたがっていると感じました。しかし管理職から見れば、上長も現場の方々も大切です。その後、配置転換などで解決しましたが、もし介入しなければ離職に繋がる問題だったと思います」
もちろん経営上の問題も提示される。
「例えば “業務提携している他社の対応が鈍く、お客様に迷惑をかけている”とか“この作業を行う意味がわからない”といったことです。これらの解決は業務改善に直結しています」
特筆すべきは、社員が匿名で社長や幹部に意見をぶつけられることだ。
「実はここが一番大変です。匿名なので、運用当初は私個人の批判や、特定の人物の悪口、ほかには単に“もうすぐ辞めます”といったものが送られてきました」