国後島に残された戦車の上に立つウラジーミル・コズロフ監督(写真は同監督提供、以下同じ)

 モスクワでとても面白い映画を観た。タイトルは「クナシル(KOUNACHIR)」。

 2018年5月に国後島で撮影され、2019年に公開されたドキュメンタリーだ。メガホンを取ったのは、ベラルーシ出身で、現在はパリに住むウラジーミル・コズロフ氏。

 国後島がテーマなのに、れっきとしたフランス映画である。モスクワでは現在「ARTDOCFEST」というラトビア発の国際ドキュメンタリー映画祭が行われており、本作はこの映画祭の枠内で2日間だけ上映された。

 この映画が魅力的なのは、タブーと考えられてきたテーマに直球で切り込み、リアルな国後島の姿と、そこに生きている人々の生活を垣間見せてくれるからだ。

 監督自らが国後島に住むロシア人たちと対話し、日本について質問を投げかける。

「日本人がいなくても良い生活をしている」と言う人もいれば、「ここには仕事がない、クリル発展計画には意味がない」とこぼし、日本と組んで雇用を創出すればいいと考える人もいる。

 海洋汚染で海産物の質が落ちていることを憂慮し「日本人ならもっとうまくやるだろう」と話す人もいる。

 心から言っていそうな人もいれば、本音は違うところにあるのではないかと思わせる人もいる。人の数だけ意見がある。

 領土問題のデリケートさを考えれば、これだけの人がカメラの前で臆せず話したというのは素晴らしいし、撮る方も撮られる方も勇気が必要だったと思う。

 64歳のコズロフ監督は、自分のことを「ソビエトの人間」だと呼ぶ。

 国後島に暮らす人々は国籍こそロシアだが、ソ連崩壊前に移住してきた人も多く、民族的にはウクライナ人だったりベラルーシ人だったりと、多彩である。

 ソビエト人としての共通したバックボーンを持っているからこそ、監督とは相通じるものがあるのかもしれない。

 ソビエト人だがロシア人ではないという絶妙な距離感と、監督本人の人柄・力量が合わさって、これらの対話が実現したのだと思う。