特に地道な基礎開発と品質管理がものを言う素材系産業分野は、中国系企業が明らかに苦手としていている分野です。中国政府がどうテコ入れしても、あと10年は確実に日本の後塵を拝し続けることになるだろうと筆者は見ています。

 一方、自動車産業は、今後の電気自動車(EV)化の進展によっては劇的な技術革新が起こり、既存技術が一気に陳腐化する恐れがあります。特にEVのコアともいえる電池技術に関してはすでに中国がリードしています。日本の自動車産業がこのまま今の優位を保てると断言することは決してできません。

2020年北京モーターショーで展示された中国の新興自動車メーカーBYDの新型電気自動車(2020年9月28日、写真:UPI/アフロ)

産業育成における官僚の差

 では、なぜ日中の技術力格差が急速に縮まり、一部分野においては逆転を許してしまったのか。様々な原因がありますが、その中から筆者が特に大きかったと感じる2つの原因を挙げてみたいと思います。

 1つは産業育成の差。もう1つは日本の改善主義の弊害です。

 産業育成の差から説明すると、これはある意味“官僚の差”であると言い換えられるかもしれません。中国の官僚は理系出身者が多く、ITを含む各産業の構造や技術について一定の知識を備えた人物が少なくありません。そうした背景からか、中国政府の産業支援策や優先強化対象とする技術の選定などはどれも理に適っており、筆者もしばしば感心させられます。

 逆に日本では、産業支援策というと、ひたすら中小企業の支援に力を注ぎ込みます。先端技術や特定分野に対する強化指導方針なども見えづらく、そうした方面の研究開発について政府は大手民間企業に丸投げしているようにも見えます。そもそもパソコンにもろくに触ったことがない人がIT担当大臣になるなど、政治家の技術への理解の程度、関心が低すぎることも問題でしょう。

新規事業の投資に躊躇する日本企業

 次は、改善主義の弊害についてです。