音楽大学で合奏ができなくなったことの意味は重い

 音楽大学や芸術大学が新型コロナウイルス感染症により本質的な存亡の危機に立たされています。問題は、その危機を学校側も学生側もきちんと認識していないことにあります。

 見かけ上、その後もしばらく経営は回転し続けるかと思いますが、命脈が尽きる現実的なリスクがあります。

 現在、多くの学校、特に大学が閉じています。23年来私が教えてきた東京大学でも授業は完全にリモート、遠隔となりました。

 遠隔が悪いとは決して思いません。数学や語学はむしろ遠隔の方が指導効率が上がります。

 ただ、私の本来の職掌である音楽、あるいは大学で学んだ物理、特にその実験は、在宅で下宿からビデオを見て「へー」で終わるというようなことではどうしようもない。

 先日私が行った「ひらめき☆ときめきサイエンス」東京大学白熱音楽教室では

●実験は、遠隔で各自が自分の目の前にセットアップを組んで測定し、データをネットで共有する。

●音楽の演奏は、ソーシャルな環境に気を配りつつ、少人数が集まってアンサンブルし、そのパッケージ全体をウエブでやり取り、共有する。

 という形をとりました。例えば、昨年秋の音楽コンクールの際は、直前に遠隔レッスンしました。生中継で弾いてもらうわけです。

 こういう時は、例えばバイオリンとピアノ伴奏は同じスタジオ内にソーシャルに在室して、私は遠く離れた部屋でそれをライブで見ながら指導します。

 時差が多少生じるものの、「あ、一度止まって、32小節の3拍目からもう一度聴かせてもらえる?」などと指示して「そこはフレーズが切れてしまうと音楽が壊れてしまうから・・・」などとレッスンしていく。

 仮にこれが、バイオリンとピアノもリモートになってしまうと、合奏にならず、どうしようもありません。ローカルとリモートの振り分け、ソーシャルなバランスが大変重要になるわけです。

「トリオ禁止」音大の現状

 こんな具合で、コンクールや定期試験などで、器楽や歌の学生がピアノ伴奏してもらうというのは、さすがに認められているわけです。

 どこと特定せず、少なからざるトップレベルの音楽大学で「三重奏」以上の編成での合奏が禁止されているのが、2020年以降の、今の日本の現状です。

 はっきり言いますが、音大や芸大に在学する意味は、そこで優れた仲間と合奏して、腕を上げていくことにあります。先生に習うだけなら、芸大に入る必要はない。

 これは、古臭い「内弟子」で育ち、実際、音大や芸大に(生徒としては)通わなかった私が言うわけですから、そのように聞いてください。東京芸術大学は教員として私を招聘してくれましたが、学生時代はモグリでレッスンや合奏に行っていただけでした。

 職業音楽家になるのであれば、内外のコンクールをたくさん取り、キャリアができてマネジメントがつけば、仕事は回り始めます。