大会前日の夕刻、宮島の対岸にある競艇場を借り切って、開会式と前夜祭が開催された。

 山上市長をはじめ来賓の挨拶の後、実行委員長として恭平は登壇しマイクを握った。

「誰もが無理だと言ったトライアスロン大会が、甘宮市で開催されるなんて殆ど奇跡です。この奇跡を起こしたのはほかならぬ皆様です」

「市街地を駆け抜けるコース設定…膨大な運営資金の調達…2000人以上のボランティア確保…300人近くの選手登録…数多くのハードルをクリアできたのは、県警や海上保安庁、シティーコーポレイションをはじめとする協賛各社、各方面からのボランティア、そして参加選手の皆様、全ての皆様のお陰です」

「何しろ初めての試みですから、未だ懸念事項が数限りなくあります。そこで一つだけ選手の皆様にお願いです」

「明日、皆様に飲料やバナナなどをお渡しするボランティアは、誰もがトライアスロンを見るのも初めてです。1カ月前から練習して参りましたが、きっと力走する皆様にご迷惑をお掛けすると思います」

「でも、誰もが一生懸命ですから、たとえ上手く渡せなくても、決して叱ったり舌打ちしたりしないでください…」

 言わずもがなの先走った老婆心を訴える最中、突如として選手の一群から湧き起こった拍手と「大丈夫だよ!」「心配するな!」の掛け声に恭平は目頭を熱くし、絶句した。

(こいつら、好い奴だな!)

 大きく深呼吸して続けた恭平の言葉は、選手たちの雄叫びで掻き消された。

「ありがとう!皆さんの力で、この大会を日本一の大会に育てましょう!」

 大会当日、旧5市町村を一本の線で結ぶ沿道には、予想をはるかに超える4万とも5万とも言われる観客が集い、熱い声援が飛び交った。

 入賞者の表彰式と閉会式は、続々と後続の完走者がフィニッシュする中で挙行された。