10年程前、ある投資会社の主催で、これから上場を目指そうとする経営者へのセミナーが広島で開催されたことがある。

 そのセミナーの講師が、東証1部上場企業のトップである当時の中沢社長だった。

 上場に殆ど関心は無かったが、中沢会長の講話とそこに集まる10人足らずの経営者の顔ぶれに興味を惹かれ、誘われるままに恭平は参加した。

 そして、マンションの販売事業で躍進するシティーコーポレイションの森園博之社長と隣り合わせに座り、住宅販売に革命を起こすと気負いもなく語るストイックな経営姿勢に感服させられ、一回り以上の年齢差をも超えた友だち付き合いが始まった。

 当時、ダイナーウイングとシティーコーポレイションとの売り上げは共に100憶円足らずだったが、その後のシティーコーポレイションの成長ぶりは凄まじく、あっと言う間に東証1部上場を果たし、経済界の寵児ともてはやされるまでになっていた。

 中沢名誉会長の部屋を出てエレベーターに乗り込んだ恭平はポケットから携帯電話取り出し、森園社長の電話番号をプッシュして面会のアポを取った。

「甘宮市で開催されるビッグイベントに、広島に本社を置く会社がしゃしゃり出たりしたら、弊社が嫌われてしまいますよ」

 初のトライアスロン大会へのメインスポンサーを懇願する恭平への返答は、当然ながら乗り気薄のつれないものだった。

「そんなことはない。好感を持たれこそすれ、嫌われる訳がない。それは私が保証する」

「それでは、弊社にとって1000万円を出すことのメリットは何ですか」

「う~ん。正直言って特別のメリットはない。1000万円ではメリットは小さいが、1500万円出してもらえば、大きなメリットがある」

「500万円追加するメリットって、何ですか?」

「御社の提供で、テレビ番組を放映する。過酷なレースに果敢に挑戦するアスリートたちの姿とシティーコーポレイションの企業イメージが重なり、きっと共感を呼ぶはずだ」

「解りました。その線で取締役会に懸けてみましょう。でも、結果は約束できませんよ」

「ありがとうございます」

「礼を言うのは早過ぎますよ」

 簡略な企画書を手渡した数日後、森園社長から電話があった。

「テレビ番組付きでお願いします」

「有り難い。必ず成功させ喜んでもらいますから、期待してください」

 飛び跳ねたい程の気持ちを抑え、電話を強く握り締めたまま恭平は深々と頭を垂れた。