自宅での緩和ケアを希望し、新しく河田が担当することになった末期の肝がん患者、本多(宇崎竜童)の姿には父の姿が重なった。ベッドで寝たきりだった入院生活から自宅に戻り、自分の足で立ち上がって、トイレに向かう本多。「おむつもありますよ」とからかう看護師(余貴美子)の言葉に耳も貸さない。
私の父は入院中、自分でトイレに行っていたが、そのうち看護師さんからカテーテルを入れてはどうかと提案され、本人はいったん、拒否したが、今度は看護師さんに私から父に伝えるよう説得された。父は周りに迷惑をかけたくなかったのだろう。ついに観念した。自分の足でトイレに行くこと。それは人間として、生きるための尊厳。そんな父の希望だった最後の砦を私は何も知らずに奪ってしまったのではないか。父のためだと思った病院からの提案は今思えば、ただの病院の都合だったのかもしれない。
いろんな死に方を知り、親や自分の死に様を考える
管だらけになって、苦しんでまで延命する価値はあるのか。
「自然な死に方とは枯れる様に死んでいくこと。過剰な点滴などの延命治療を受けた人は痰や咳で苦しんでベッドの上で溺れ死んでいる」と劇中で長野医師は言う。
自宅でリラックスでき、生き生きした本多は酒やたばこも嗜み、家族との時間を大いに満喫して、人間らしく最期を迎える。こういう死に方もあるのだなぁと最後には霧が晴れたような気持ちになった。
この映画は何も病院で死ぬことがよくないと言っているのではない。在宅で死ぬという考え方もあっていいのではないかと提案しているのだ。そういう死に方もある。そう考えられるだけで心に余裕ができ、来るべき死をそう恐れるものでもないのかもしれないと捉えられるようになる。どう死にたいのかはどう生きるかと同じくらい大切な問題だ。日ごろから、もっともっと考えて、意識しておいた方がいい。
『痛くない死に方』には「こんなことがあるのか。これを知っていたら、違ったのに」といろんな発見がある。
いつかの自分のために、誰かのために。この映画を観て、一人でも多くの人が少しでも後悔することを減らしてほしいと願う。
『痛くない死に方』
2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
出演者:柄本佑、坂井真紀、余貴美子、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二
監督・脚本:高橋伴明
原作・医療監修:長尾和宏『痛くない死に方』『痛い在宅医』(ブックマン社)
プロデューサー:見留多佳城・神崎良・小林良二
制作:G・カンパニー
配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会
医療協力:遠矢純一郎、井尾和雄