(土田陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧米諸国が対ロシア制裁の強化で一致する裏で、ドイツの立場が危うくなっている。2014年のクリミア危機以降、欧米はロシアに対して経済制裁を科している。さらに最近では、前回記事「ナワリヌイ問題が映し出すプーチン晩期の神通力」で述べたように、反体制派の指導者であるアレクセイ・ナワリヌイ氏の処遇をめぐって、欧米はロシアに対する反発を強めている。
ロシア政府はナワリヌイ氏が呼びかけたデモに参加したとして、欧州連合(EU)に加盟するドイツ、ポーランド、スウェーデンの外交官を国外退去処分とした。これら3カ国も報復措置としてロシアの外交官を追放したが、こうした表向きのスタンスとは異なり、本音では強い態度で出ることができない国がある。それはドイツだ。
ではどうしてドイツがロシアに対して強く出ることができないのだろうか。なぜならばドイツは、自らが定めた温室効果ガスの排出削減目標を達成するために、ロシア産の天然ガスを確保しなければならない事態に追い込まれているからだ。対露関係が極端に悪化すれば、当然だがドイツはロシアから天然ガスを安定的に調達できなくなる恐れがある。
ドイツはロシアとの間で「ノルドストリーム2」と呼ばれる天然ガスを輸送するパイプラインの建設を進めてきた。すでに9割は完成しており、残る工区はドイツ側のみとなっている。巨額の費用がかかっていることもあり、ドイツは是が非でもこの計画成功させなければならない。そこにロシアの付け入る隙があるというわけだ。