過去にも指摘されていた「市場設計の欠陥」
まず、石川氏と私では、出発点の認識に違いがあった。今回の電力市場大混乱の要因として、「市場設計の欠陥」があったのかどうかだ。
石川氏はこれを否定する。要因は国際的なLNG逼迫であり、「市場は正常に機能した」との見解だ。このため、私の言っている「遡及的還元」など端からあり得ないし、今後こうした事態を防ぐには「LNG依存の軽減」、つまり原発再稼働の推進などしかないことになる。石川氏以外にもこの立場の論者は多い。
これに対し、私は「市場設計の欠陥」があったとの立場だ。簡単にいうと、
・電力市場(大手電力が発電の8割を占め、かつ、発電と小売の双方を有する)は、構造的に相場操縦などの可能性が否めず、悪意はなくとも異常な価格急騰が生じうる構造、
・このため、問題発生を防ぐ市場設計(例えば大手電力の燃料在庫や社内取引の情報開示など)が不可欠だったが、これが不十分なまま今回の事態が発生した、
と認識している。
したがって、喫緊の課題は「市場設計の修正」。また、欠陥から生じた不公正は、政府の責任で「負担配分の適正化」を行うべき、との考えだ。「遡及的還元」はこの観点で言っている。
欠陥の存在は、問題が起きてから「後出しジャンケン」で指摘しているわけではない。
私がかつて委員を務めていた規制改革推進会議では、こうした市場構造では異常な価格急騰が生じかねず、市場の透明性向上等が必要であることを指摘していた(2019年6月答申*1、p.47)。先物市場の適切な整備なども求めていた。十分な解決に至っていなかったことは悔やまれる。
*1 https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/publication/toshin/190606/toshin.pdf
石川氏との討論では、出発点の不一致は解消できていない。今後、「市場設計の修正」の具体策も含め、さらに議論を深めたいと思う。もちろん、石川氏の指摘するエネルギー供給体制の改善も大事な課題だ。