(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
電力供給に異常事態が続いている。各地の電力使用率は最大90%以上に達し、大きな火力発電所が停止すると大停電が起きかねない状況だ。日本卸電力取引所(JEPX)の卸電力価格は200円/kWhを超えた。これは通常の20倍を超え、電力を買う新電力の経営危機が表面化した。
これに対して経済産業省は1月15日、卸電力料金の上限を200円に制限した。それでも足りない新電力56社が、電力を供給する大手電力会社が「想定外の利益」を返還せよという要望書を経産省に提出した。これは電力自由化を根本から否定するものだ。
20倍以上になった卸電力価格
今回の電力不足の原因は、10年に1度といわれる寒波による電力需要の増加と、LNG(液化天然ガス)の在庫不足だといわれるが、問題はそれだけではない。この冬は、昨年(2020年)4月の発送電分離の後の初めての冬なのだ。
電力自由化で発電会社と送電会社が分離され、多くの新電力が参入してきた。こういう会社の中には自前の発電設備(太陽光発電所など)をもつ業者もあるが、自前で設備をもたないでJEPXで仕入れた電力を売るリセール業者も多い。再エネ業者も、太陽の出ない時間や風のない時間には大手電力会社から電力を売ってもらう。
こういう業者にとっては「小売り料金-卸し売り料金」が利益になる。普段は小売りが15~20円で卸し売りが5~10円なので、新電力はその利鞘で利益が出せるが、これが逆になると赤字になる。これは誰でも知っている商売の当たり前のルールである。
ところが昨年末から起こった価格上昇は、予想を超えるものだった。12月上旬まで10円/kWh以下だった卸電力のスポット価格は、12月中旬から急上昇して今年初めに100円を超え、1月14日には最高値の221円をつけた。
これによって新電力は大幅な赤字になるので、払えない業者も出てくるが、それでも電力が止まることはない。大手電力会社は通常通り送電し、その料金を後から新電力に請求するインバランス料金という制度があるからだ。