「ペニシリン」の走り書きが意味すること
「満すみ」には経営者や働いていた女性のものと思われる物も少なからずあった。
座敷に無造作に置かれた段ボール箱の中には、当時の女優のピンナップや借金5000円の契約書、遊廓の従業員の履歴書や高級時計を購入した際の日掛け金融の契約書、宝くじの外れくじなどがあった。『映画と演劇』『芸能画報』『ジャズ用語辞典』などの雑誌からは所有者の趣味がうかがえる。
ダンボールに無造作に入れられている
従業員のものと思われる履歴書
割賦と思われる日掛けの領収書
ダンボールに遺されていた雑誌
また、ペニシリンという走り書きとともに、日々の体温推移を記したメモが出てきたが、これは結核にかかった娼妓のものだろうか。大阪新聞の4コママンガ(ヤネウラ3ちゃん)の切り抜きなどを見るに、こういったささやかな娯楽を日々の楽しみとしていたのかもしれない。
体温を記したメモ。左上にペニシリンと書いてある
4コママンガの切り抜き
さらに、熱燗をつくる際に用いたと思われる、「温酒」と刻印された器具も見つかった。見た目は金属製の寸胴のようなもので、上に漏斗のようなものが2つついている。下で火を炊き、日本酒を温めたようだ。
熱燗をつくる道具
近現代史に登場するような歴史的遺構とは異なり、日々の日常の中にあった施設は受け継がれることなく歴史の藻屑として消えていく。ただ、今を描き出すだけでなく、消えゆくものを可視化し、意味を与えることもジャーナリズムの役割。「満すみ」自体はいずれ解体されるだろうが、この場所と建物の記憶は後世に引き継がれていく。
※本記事で紹介した「満すみ」の写真集が完成しました。ご不便をおかけしますが、ご関心のある方は以下のウェブサイトからご連絡ください。Facebookのグループページ「元遊郭『満すみ』の記憶」でも随時、情報を公開しています。







